何を学ぶのですか?
主に工芸作物を取り上げて,作物栽培に共通する技術,ある共通したグループの作物群に共通する技術,作物それぞれに個性に対応した技術を考えていきます.
工芸作物とは工業的な加工して利用する作物のことです.ダイズはそのひとつですが,日本人はダイズというと豆腐,納豆,醤油などを思い浮かべるでしょう.しかし,日本でも大半のダイズは食用油を搾油するために使っています.このような搾油は工業的に行われますから,ダイズは工芸作物のひとつです.ただしダイズは食用作物(豆腐,納豆のような加工では工芸作物には含めないのが慣例)でもあり,搾油したダイズかすを家畜飼料にするので飼料作物でもあります.工芸作物という分類は植物学的なものではなく,あくまでも用途からみたものなので,トウモロコシ,ダイズなどは食用作物,工芸作物,飼料作物のいずれにも含まれます.
農業問題というと食糧のことばかり考えがちですが,日本は食糧だけでなく,工芸作物もたくさん輸入しています.工芸作物は適地が限られるので日本では栽培できないものは輸入されます.コーヒー,天然ゴムなどがその典型です.収穫後に加工のために多大な労働を要求するものは賃金の安い国で作る方が有利になります.タバコ,サトウキビなどがそうです.イグサも安価な労働力が供給される中国に産地が移ってしまいました.さらに日本の食生活が西欧化し,油糧作物(ダイズ,アブラヤシ,ナタネなど)の輸入も増加しています.下の講義録の目次を見てみますと,日本が大量に輸入している作物がたくさん並んでいます.上から,デンプン料作物としてトウモロコシ,糖料作物(サトウキビから作った砂糖を輸入),油糧作物(アブラヤシから搾油した油,ナタネ,ダイズは輸入して日本で搾油),繊維料作物(ワタ,麻類),和紙の材料であるコウゾ,畳の材料であるイグサ,嗜好料作物(コーヒー,カカオ,ホップ,チャ,タバコ),天然ゴムとほとんどすべてです.
とくに食生活の西欧化が世界全体で進む中,油糧作物の生産が世界的にも急増しています.この伸びは食用作物であるイネ,コムギ,トウモロコシよりもはるかに急なものです.
さらに石油資源の枯渇が懸念され,地球温暖化を阻止するために二酸化炭素を排出しない植物由来の素材が注目されるようになりました.工芸作物あるいは特用作物と呼ばれた一群の作物のうち,一部は資源作物という見方がされるようになってきています.21世紀に世界の農業がどの方向へ進むかを考える上でも食糧作物だけでなく,工芸作物を注目する必要があると思います.