第3回 作付体系・コンニャクから工芸作物の特徴を考える

2.休栽年数による作物の分類

連作障害の少ないもの イネ,麦類,アワ,キビ,トウモロコシ,ワタ,タバコ,タマネギ,カボチャ,カブ,サツマイモ,キャベツ,イグサなど
2年程度の連作が可能 ナタネ,ハッカ,コンニャク
1年休栽を要するもの ショウガ,ネギ,ラッキョウ,ホウレンソウ,ニンジン,ジョチュウギク,ダイコン,サトウキビ
2年休栽を要するもの 陸稲,ジャガイモ,ヤマイモ,ソラマメ,ラッカセイ
3年休栽を要するもの サトイモ,トマト,トウガラシ,インゲンマメ,大豆,テンサイ
5年休栽を要するもの ゴボウ,スイカ,ナス,エンドウ,アズキ,トロロアオイ
10年休栽を要するもの アマ,薬用ニンジン
(3) 特定の物質の集積
A.作付体系
1.連作障害
  工芸作物には連作を嫌うものが多いので,経営に1つの工芸作物だけを据えて栽培するということはあまりできません.連作障害が起こる理由として主に3つの理由があげられます.
コンニャク栽培について(家庭菜園)
5.コンニャク栽培
コンニャクの葉は強い光を嫌いますので,( 密植 )にして,相互遮蔽させ,葉に当たる光を弱めます.
かつては日本の福島以南の山間部でよく栽培されました.この場合,樹木の陰,あるいは北向きの斜面に植えるなどして,強い光を避けました.斜面は排水もよく,湿害に弱いコンニャクには適した場所でした.
(4) 経営上の理由
 土地利用率の向上
  日本では昔から,夏に( イネ  )を植えて,冬に水田あくので( イグサ ),( ナタネ ),( 麦類 )などを植えてきました.

 労働力の分散
  工芸作物は栽培・収穫・調整・加工に手間がかかります.したがって,とりわけ家族労働中心の経営では一つの工芸作物だけを栽培すると,ある時期だけが忙しくなりすぎるのに対し,それ以外は時間があまってしまい,合理的ではないので,別の作物を栽培して,労働力を分散させることがあります.
    チャ・・・ 収穫作業(茶摘み)
    タバコ・・・摘心,収穫,乾燥
    サトウキビ・・・移植,収穫
    テンサイ・・・苗作り,移植

 危険分散
  工芸作物は値動きが激しいものが多いので,あまり一つの作物だけに依存すると危険なことがあります.
  熱帯ではコーヒー,チャ,サトウキビなどに偏りすぎた農業経営をしたために,価格が暴落して,農家どころか島全体(フィリピンのネグロス島),国(ブラジルはコーヒーの値動きの影響を大きく受けてきた)の経済まで大打撃を受けることさえ起こります.
(3) 日本での作付体系
 日本の農業は水田稲作を中心に発展してきたので,ヨーロッパのような典型的な輪作体系は生まれませんでした.しかし,二毛作などの作付体系が日本の風土に合わせて発達し,畑では輪作も行われました.

 水田の裏作で
  コムギ,オオムギなどの食用作物だけでなく,ナタネ,イグサのような冬作物の工芸作物を植えることによって土地利用率を向上させるだけでなく,現金収入を得ていました.

 田畑輪換(でんぱたりんかんと読みます)
 江戸時代においても高い収益性のあった夏作物の工芸作物(アイ,ワタ,タバコなど)を栽培し,連作の回避のために水田にもどすことが行われていました.明治になると輸入品に押され,工芸作物は衰退しましたが,野菜,スイカなどを導入した田畑輪換が主に水利の悪い地方で行われました.
 近年では土地改良事業によって圃場の排水がよくなったこと,米の生産過剰で水田の転作が求められることなどから,ダイズ,野菜など種々の作物を組み込んだ田畑輪換が行われている.

 田畑輪換の意義としては,
 (1)輪換畑期間の水使用量減による農業用水の節減
 (2)多様な種類の作物を作ることによる農家経営上のメリット
 (3)一般に普通畑よりも地力が高く,水も利用しやすい水田で栽培することによる畑作物の増収・安定化
 (4)湛水状態と畑状態を繰り返すことによる土壌環境や生物相の変化を作物栽培の中で活用
 があげられまる.

 江戸時代 ワタと水田の田畑輪換がさかんでした.

 畑として
 テンサイ,ジャガイモ,コムギ,飼料作物などを循環して栽培する輪作を北海道の畑作で行っています.
 植物体内で生産されて,土壌中に蓄積した生育阻害物質が連作障害の原因となることもあります.
 植物から放出される化学物質が,他の植物や微生物・昆虫に対して阻害的あるいは促進的な何らかの作用を及ぼす現象をアレロパシーといいます.
 アブラナ科の作物はホウ素の吸収が多く,マメ科はカルシウムの吸収が多いなど作物によって特定の養分を吸収するために続けて同じ作物を植えると土壌中の養分のバランスがくずれ,養分欠乏や酸性,アルカリ性に土壌が偏ることがあります.
(1) 病虫害
 連作によって,土壌伝染性病害が蔓延するようになります.とくに線虫の密度は連作によって著しく増加します.イネは水稲栽培ならば連作障害は見られないのに対し,陸稲(おかぼ)では2,3年の連作でも収量が低下します.この原因の一つが土壌中のシストセンチュウ密度の増加です.シストというのは体内に卵を抱いたまま微小の袋体に変わり,活動を長期間停止した状態のもので,長期間生存できるので,防除困難です.
コンニャクの品種の紹介
群馬県のコンニャク畑
栽培特性としては
( 強い )光,( 乾燥 ),( 湿害 )に弱い( 熱帯 )原産の作物です.

( 浅根性 )で干ばつにも弱いです.

このようにコンニャクは熱帯原産なのに強い光を嫌います.これは原産地の熱帯では森林の中に生きていて,それほど強くない光を受けていたからだと思います.さらに熱帯の山中の森林の中は適度な水分が土壌に常にあり,しかし,水が多すぎることもない環境だったのでしょう.根が浅いのは熱帯の森林の土壌はそれほど深くまで発達していないからでしょうか?このように光がそれほど強くなく,土壌の養分も乏しい熱帯の森林の中でコンニャクはじっくりと光合成し,無機養分もためていき,十分たまったところで花を分化させる戦略をとったのかもしれません(生態学者ではないのでこれは憶測ですが).

( 1)枚しかない葉から( 球茎 )へ光合成産物が移行します.

もともとは数年かけてイモを肥大させていく( 労働集約型  )作物です.むかしは,農家は収穫後,イモを裁断して乾燥して,荒粉を作ることによって,付加価値をつけて,出荷したものでした.冬の山間部において,できる副業であり,乾燥に必要な薪を山から得ることができたのでした.

  しかし,このように従来,( 中山間地  )で特産物とされたましたが,近年,機械化,大規模化にともない,産地は山間部から平野部に移動しました

コンニャクの生子(きご),球茎,果実,植物体,花
春に球茎から1本の円柱状の葉柄が伸長します→羽状複葉が展開します.
茎に見えますが葉柄です.したがって,葉は1枚しかありません.
球茎は新葉の展開とともに貯蔵養分を失い,萎縮します.
新しい球茎が古い球茎の芽の基部に生じます.
球茎の側芽から吸枝が発生し,その先に生子(きご)ができ,子イモを増やします.
5,6年たつと開花結実し,イモは枯れます.
子イモ(生子)から収穫できるまでに3〜4年ほどかかります.
3.コンニャクの利用
かつては洗濯のりなど工業的にも利用していました..

球茎に蓄積されるグルコマンナンの1種であるコンニャクマンナン(図3,グルコース:マンノース=1:2〜2:3の割合で重合したもの)を利用します.

表1 コンニャク県別生産額の推移(t

1950

1970

2000

茨城 2300

群馬 47000

群馬 61500

広島 1600

福島 16000

栃木 04800

群馬 1000

茨城 07500

 

合計 14000

合計 114000

合計 72600

 

海草を混ぜる板コンニャクは大正時代に現れました.これはもともと生イモから作ったコンニャクは皮が混ざって,黒っぽくなったのですが,西日本ではこちらの黒っぽいコンニャクが好まれたので,精粉から作る白いコンニャクに海草を混ぜた物です.ですので時にある誤解に,白いコンニャクは漂白剤で白くしたとか,黒いコンニャクは色をつけたとかいうのはどちらも間違いで,白いコンニャクは精粉から,黒いコンニャクは生イモから,あるいは精粉からできたコンニャクに海草で色をつけたものです.

現在,群馬県が主産地(約90% 2000年,)となっています.
B.コンニャク
1.コンニャクの生物学的分類
サトイモ科コンニャク属  学名 Amorphophallus konjac K. Koch
2.コンニャクの歴史
原産地はベトナム周辺の東南アジアという説が有力です.
(2) 輪作の効果
 地力の維持
 土壌の有機物を増やす(イネ科作物),窒素固定による窒素成分の供給(マメ科作物)など地力の維持をはかることができます.根菜作物による深耕も耕土を深くして,地力の回復に役立ちます.

 前作の作物によって,作物の収量が変わります(くわしくは現代輪作の方法 有原丈二 農山漁村文化協会を読んでください).アーバスキュラー菌根(絶対共生菌)と共生することのできる作物と共生できない作物があり,共生できる作物を栽培するとアーバスキュラー菌根の密度が増えます.

 アーバスキュラー菌根は作物のリン酸の吸収を助けるので,リン酸の施肥量が少ないときは収量が増加します.近年,リン酸資源の枯渇が危惧されているので,アーバスキュラー菌根の活用は重要になってくると考えられます.

 雑草の抑制
 イネ科作物に比べ,水平葉の広がるマメ科作物,ナタネなどは雑草を抑制する効果が大きいと考えられます.あるいは水田と畑を交代させる田畑輪換では雑草の生活する生態系が大きく変動するので,特定種の雑草が増えることを抑制できます.

 土壌伝染性の病虫害の抑制
 センチュウなどの土壌伝染性の病害は連作を続けると増加します.輪作は特定の病虫害の原因となる生物の生息密度が大きくなるのを抑制します.

 土地利用率の向上
 二毛作のように夏と冬にそれぞれ作物を植えることによって土地利用率が高まります.

3.輪作,作付体系
 連作障害を回避し,圃場を維持すること,さらに経営的な理由から,適切な輪作,作付体系を考える必要があります.
 センチュウの種類によって,寄主範囲が異なり,ある種類はごく限られた種類の作物にしか寄生しないのに対し,他の種類はきわめて多犯性です.

 一般的には,シストセンチュウは寄主範囲が狭く,土壌での生存年限は数年以上と長いです.一方,
 ネグサレセンチュウがもっとも多犯性であり,この次にネコブセンチュウが続き,シストセンチュウは寄主範囲が狭いです.輪作がよいといっても,固定した輪作体系が長く続くと,センチュウがその輪作体系に適応することもあります.

1 センチュウからみた連作あるいは相互間の輪作が望ましくない作物

(九州農試 1976

ネコブセンチュウ

(主としてサツマイモネコブセンチュウ)

ミナミネグサレセンチュウ

果菜類:トマト(感受性品種),ナス,キュウリ,スイカ,メロン,マクワウリ,ニガウリ,カボチャ,オクラ

オカボ(陸稲),ダイズ,サトイモ,サツマイモ(感受性品種),ジャガイモ,トウモロコシ,テオシント,スーダングラス,カウピー,アルファルファ,クローバ

根菜類:ニンジン,ダイコン,ゴボウ,ショウガ

 

いも類:サツマイモ(感受性品種),ジャガイモ

 

葉菜類:ホウレンソウ

 

マメ類:アズキ,クローバ,アルファルファ

 

工芸作物:タバコ

 

出典:作物輪作技術論(大久保隆弘)

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参考文献
工芸作物学 栗原浩編 農山漁村文化協会
作物学各論 石井龍一ら著 朝倉書店
工芸作物学 西川五郎著 農業図書
作物輪作技術論 大久保隆弘 農山漁村文化協会
現代輪作の方法 有原丈二 農山漁村文化協会
肥料になった鉱物の物語 高橋英一 研成社
コンニャク製造会社のホームページ
さらに知りたい人は
コンニャク 風土と環境 栗原浩 農山漁村文化協会(コンニャクの自然生栽培がくわしい)
      コンニャク会社のホームページ http://www.konnyaku.com/
      コンニャクのいろいろ http://www.max.hi-ho.ne.jp/konjackey/index.html
コンニャクについて(神奈川県農業技術センター)
その他,こんにゃくについて
3年かけて球茎を肥大させて開花したコンニャク
島根大学実験圃場のコンニャク
大きなものは2年生の球茎から,小さなものは1年生の球茎から萌芽したもの.
生子と球茎
コンニャクマンナンの特性は以下の通りです.
(1) ( 高分子 ),難消化性の( 多糖類 )

(2) 水による膨潤度がきわめて大きい

(3) ( 糊状 )となって強い粘性を示す→糊としての利用

(4) ( アルカリ )を加えると包水したまま凝固して膨潤性を失う→食品としての利用
4.コンニャクの生活環(一生)
数年かけて,球茎を肥大させ,コンニャクマンナンを蓄積していきます.
十分にコンニャクマンナンを蓄積して肥大した球茎は翌年に開花,結実,枯死します.
このとき蓄積したグルコマンナンを分解して,種子の栄養にします.
ということはせっかくためたものを人間が横から利用していることになります(サゴヤシもそうですね)
コンニャクを含むAmorphophallus属の植物
コンニャクの一生ほか(ここでフレームから入ってください)
コンニャクの形態
コンニャク農家とコンニャク栽培統計l
神奈川県農業技術センターのコンニャクのページ
日本に伝来した時期は未詳ですが,一説には縄文時代から栽培していたともいわれます.
記録に残るのは西暦930年(延長8年)の倭名類聚抄(わみょうるいじゅしょう,源順著)にて蒟蒻あるいは古邇夜久というのが最初の日本での記録とされます.

江戸時代に水戸藩の特産品(専売)となりました.
水戸藩那珂郡(現常陸大宮市)の農民,中島藤右衛門がそれまで生イモでしか流通していなかったコンニャクを乾燥させ,粉にする方法を発明しました.この方法によって,より遠くへ流通できるようになりました.

茨城県のホームページから中島藤右衛門
水戸藩専売だったコンニャクには袋につけた木札に焼き印が押されました
コンニャクを乾燥させ,粉にする精粉加工法の開発は1776年ごろのことでした.
最近問題になっているジャガイモシストセンチュウについて説明(リンク)
生イモからコンニャクを作る方法
荒粉の作り方(神奈川県農業技術センター)
おおざっぱなコンニャクの栽培暦です.
5月 植付
6月 出芽(植え付けてもなかなか芽が出てきません),施肥,中耕培土,敷き草
7月 追肥
10月 掘り取り


6.収穫から加工まで
生イモからでもコンニャクを作ることができます.生イモから作ったコンニャクにはそれ特有の風味があるので好む人も多いです.生イモを裁断して,乾燥した荒粉,さらに荒粉を粉砕して,デンプンなどの不純物を除去して,グルコマンナンを精製した精粉に加工してからコンニャクにするのが一般的です.

荒粉,精粉にすると貯蔵性・運搬性が増します.むかしの山間部の農家はコンニャクを栽培し,冬の農閑期に荒粉に加工して出荷しました.むかしは交通も発達していませんでしたから,出荷する生産物が重さの割に価格がよい作物は有利でした.その意味で工芸作物のあるものには,農家が一次加工して出荷するものがあります.今から見るとそんな手間までかけて栽培する意味があるのかと思ってしまいますが,コンニャク,タバコ,コウゾ,ミツマタ,麻類などは生産物が軽くなるので有利だったのでしょう.



7.コンニャクの作り方
  
コンニャク栽培に関する研究例(マルチ麦と施肥方法について)
コンニャクの歴史
作付体系
 農場で栽培する作物の種類・配置・作付順序の組み立てを作付体系といいます.したがって,輪作は作付体系のひとつ,あるいはそれを構成する一つの要素ということがいえます.混作,間作なども作付体系を構成します.
センチュウの場合,複数の作物に寄生するものがあり,ただ単に同じ作物あるいは同じ科の作物を植えるのを避ければよいわけではありません.センチュウの中には異なる科をまたいで寄生するものもあります(下の表).オカボ(陸稲)のあとにサトイモを植えてはいけないという言い伝えはこのことを示したものです.
コンニャクの作り方(神奈川県農業技術センター)
コンニャクの精粉の写真
コンニャクの養分吸収特性としては,3要素のうち,カリウムをよく吸収します.
コンニャクの成分:グルコマンナンの構造式
黒いコンニャクと白いコンニャクの説明
コンニャクのページ
コンニャクの歴史
(1) 西洋での輪作体系
 ヨーロッパでは輪作体系が以下のように発展していきました.

  ( 二圃式  )    コムギ→休閑
       ↓
  ( 三圃式   )    コムギ→オオムギ→休閑
       ↓
  ( 改良三圃式   )    クローバの導入(窒素固定する作物)
       ↓
  ( ノーフォーク式  )    コムギ→オオムギ→飼料カブ(テンサイ)→クローバ

 古代ローマ帝国の頃より南ヨーロッパではコムギ作の後,水分,地力の回復のために1年の休閑を行う二圃式の輪作体系が取られました.水の制約の少ない北ヨーロッパでは地力の回復を3年に1度行い,コムギ,オオムギ,休閑の順で行うようになります.このようにして圃場の利用を高めました.休閑中は圃場に残された前作物の残渣,微生物による窒素固定,クローバなどのマメ科植物による窒素固定などを期待したと考えられます.
 やがて,窒素固定するクローバなどのマメ科作物と中耕施肥を必要とし,耕土を深くする根菜類を輪作体系に積極的に組み込んだノーフォーク式の輪作へ発達しました.
 化学肥料の登場によって厳密な輪作は必要なくなりましたが,畑作物栽培の場合,土壌の保全にとって,今でも輪作はいろんな形で部分的であるにせよ,取り入れられるのがふつうです.
 輪作技術の発展の詳細は「作物輪作技術論 大久保隆弘著 農山漁村文化協会」を見てください.
輪作
 地力の維持を目的として異なる種類の作物を一定の順序で循環して栽培する作付体系を輪作といいます.
(2) 特定の養分の不足