第1回 工芸作物とは?

5.現在の工芸作物
1)消費の増大している工芸作物
 油料作物(ダイズ,ナタネ,アブラヤシ),嗜好料作物(コーヒー,カカオ,チャ)

2)工業製品に押されて減少しているもの
 繊維料作物(チョマ,アマ),天然ゴム

3)生活水準の向上で減少しているもの
 デンプン料作物,糖料作物

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A.作物を分類すると
B.工芸作物(特用作物)の特徴
1.換金作物の性格が強い
2.品質が収量に優先する
価格的に有利な作物が多い
農閑期に加工するなどして副業に組み込める
自家消費するために栽培するのではない 換金しないと栽培した農家でも利用できないことが多い
農家自身で加工して付加価値をつけることも多い
市場での値動きに敏感で,経営が左右されやすい
3.適地適作が有利である
4.加工施設が必要である.
1)含有率が高い方がよい
2)ある性質が望まれる場合 デンプンの特性,油脂の組成
3)人間の嗜好性に左右される場合 チャ,コーヒー
4)人間の非合理的な好みに左右される場合 オタネニンジンでは人間の形をした根が珍重される
品質,収量が高くなる気象,土壌などの条件が栽培で必要である
ときにはその作物を加工するだけの高い技術力や労働力がないと栽培適地にならないこともある
農家自身で加工施設を持つ場合もある
 イグサ 畳表の加工まで農家が行う場合がある
栽培地の周辺に工場が必要な場合
 テンサイ,アブラヤシ
C.工芸作物の過去・現在・未来
1.産業革命以前
 衣食住に必要なもの 自給が原則
日本でいえば
 衣服 麻類(タイマ,チョマ) 江戸時代にはワタも普及
 食生活 油料作物 ナタネ,エゴマ,ゴマ
 住居 イグサ
 薬料作物 オタネニンジン
2.江戸時代の日本の工芸作物
江戸時代になると生活水準の向上,諸藩の産業育成などにともない,工芸作物の栽培がさかんになる
とくに徳川吉宗の享保の改革以降,各地に名産品が生まれるが,工芸作物が関与する名産品が数多く誕生する.島根県ではオタネニンジンなどである.詳細は講談社現代新書 新書・江戸時代1:将軍と側用人の政治,5:流通列島の誕生に詳しい.
1) 自給自足のための工芸作物
食生活の向上 油(ナタネ,エゴマなど),調味料(砂糖,醤油),香辛料(唐辛子)
衣類 麻類から木綿の衣服へ
紙 和紙(コウゾ)
幕末に来た西洋人は一般庶民が本を読んでいることに驚いている.また江戸時代初期に伊達政宗が派遣した支倉常長一行のローマへの使節では,日本人の使った鼻紙に西洋の人が関心を示したことが記されている
2) 換金作物のための工芸作物
生活水準の向上によって余裕のできた庶民は茶,たばこなどを楽しめるようになった.一方,先進的な農家はチャ,タバコ,ワタなどの換金作物の栽培によって,利益を求めるようになった.江戸時代後半になると日本で産出される金銀が減少し,オタネニンジン,生糸,砂糖などを輸入する代わりに自ら生産するようになる.
3) 各藩の特産品
大坂で取引された種々の商品から工芸作物由来の物をあげると・・・
菜種 ナタネからとれる油は食用だけでなく灯火としても重要だった 諸藩で栽培された
綿  ワタは温暖な気候が必要なので,畿内,三河などで栽培された
紙  コウゾ
タバコ
砂糖 薩摩藩など
藍  阿波藩
人参 会津藩,松江藩
紅花 山形県最上川流域
畳 イグサ 備後(広島県東部)
茶 京都府宇治
3.明治以降の工芸作物
江戸時代に栽培の盛んだったワタは外国の輸入品に押されて消滅していった
一方で,北海道北見地方のハッカ,北海道と瀬戸内地方の除虫菊,静岡などの茶など海外に輸出されるようになり,生産が飛躍的に拡大した工芸作物もあった.
4.石油化学工業と工芸作物
産業革命以降,石油などから人類は今まで自然にはない素材を作るようになった.
その中には天然の物より優れているもの,あるいは天然の物には劣るが安価に生産できる物などが現れ,工芸作物の栽培は次第に減少する.
1)染料
 藍は日本ではタデアイ,インドなどではインディゴから得ていた.1880年に工芸的に藍が合成され,その後,種々の人工染料が生まれ,高級品を除くと天然由来の藍は廃れた.
2)繊維
 ナイロン,ポリエステルなどの人工繊維が生まれ,多くの用途で植物繊維(綿,麻類)にとってかわった.
6.未来の工芸作物
1) 石油資源の代替,あるいはCO2を排出しない植物由来の素材など
 デンプンから作るプラスチック
 紙の材料 ケナフ

2)遺伝子組換作物
 新素材,食べるワクチンなど

食用作物
 高度な加工をしないで,人間の食用に利用する作物

工芸作物
 工業的な加工を経て,利用する作物

飼料作物
 家畜の飼料に利用する作物

 トウモロコシ,ダイズは食用作物,工芸作物,飼料作物いずれにおいても重要である.
麻から木綿への変化
 最後に,日本は食糧だけでなく,それ以外の農作物(特に工芸作物)の大輸入(消費)国です.
1999年における各種作物あるいは作物由来の製品の輸入量(日本国勢図会2001より)
小麦561万トン,大豆488万トン,トウモロコシ1661万トン,コーヒー豆36万トン
綿糸は衣類を輸入して消費するようになったので,輸入はすくないですが,国内で消費される量は82万トンになります.
 農業問題というと食糧それも米,麦ばかりを想像しますが,実際には日本にはこれだけ多くの工芸作物が輸入されていることを念頭に置いて考える必要があります.中国でさえ,米などは自給していてもすでに油糧作物は輸入大国になっているのですから(例:世界のダイズの輸入の28.6%を中国が行い,日本は8.4%で世界第3位のダイズ輸入国,ダイズの半分をアメリカが,4分の1をブラジルが輸出しています).
 石油が近い将来に枯渇するかどうかには意見がだいぶん分かれるようです.しかし,もし石油が枯渇し始めたら,植物由来の素材である綿,麻などをはじめとした作物への需要は急増するでしょう.しかし,そのときにはこうした作物を栽培するときに必要な窒素肥料を工業的に作ることも困難になるのかもしれません.
 しかし,日本で全部自給できるわけでもありません.もとより熱帯産のものはできませんし,日本で栽培できるものでも外国の方が品質もよく,コストも低ければ輸入した方がよいはずです.熱帯諸国の経済発展のためにも熱帯が得意とする農作物は輸入するべきでしょう(反論もあるでしょうが).日本の自然は豊かであり,日本の耕地も高い生産力を持っています.この生産力をどういう作物を栽培するために利用するかを考えて行かなければならないでしょう.
 さらに石油によって,生活に必要なエネルギーと非常にたくさんの種類の生活必需品を得ることができるようになって,私たちの生活は大変豊かになりました.しかし,石油の枯渇への危惧から植物からエネルギー(バイオエタノール,バイオディーゼル)やプラスチックを作る技術が開発されてきています.炭化水素である石油に比べて,バイオエタノールやバイオディーゼル燃料には炭素,水素だけでなく酸素も含まれるので,輸送すると酸素というエネルギーにならない部分が大きくなります.外国で生産したバイオエタノールなどはあまり効率的ではないかもしれません(日本で作るとコストが高すぎるのですが).純一次生産量の多い国土からどのようにエネルギーを確保するかも今後,重要になるかもしれません.