参考文献
工芸作物学 栗原浩編 農山漁村文化協会
工芸作物学 西川五郎著 農業図書
工芸作物学 佐藤庚ら 文永堂
作物学各論 石井龍一ら 朝倉書店

さらに知りたい人は
ワタ全般 日本綿業振興会 http://www.cotton.or.jp
麻全般 日本麻紡績協会 http://www.asabo.com
繊維と衣類の話としては 着ごこちと科学 原田隆司 裳華房
化繊も含めて繊維全般  繊維の知識 篠原勝彦 アパレルファッション
苧麻・絹・木綿の社会史 永原慶二 吉川弘文館

第8回 繊維料作物

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統一文字1)

種類

 

 

 

 

 

種子毛繊維

綿

綿花

靭皮繊維

2)

亜麻,苧麻

黄麻,大麻

葉脈繊維

マニラ麻,

サイザル

その他

シュロなど

獣毛繊維

ウール(緬羊),モヘア,カシミア,アルパカなど

絹繊維

家蚕絹など

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

再生繊維

セルロース系繊維

レーヨン

 

プロテイン系繊維

 

半合成繊維

セルロース系繊維

アセテート

 

プロテイン系繊維

プロミックス

 

 

 

 

 

ポリアミド系繊維

ナイロン

 

ポリエステル系繊維

ポリエステル

 

ポリアクリロニトリル系繊維

アクリル

 

ポリウレタン系繊維

ポリウレタン

 

ポリビニルアルコール系繊維

ビニロン

 

無機繊維

 

ガラス

 

A.繊維
1.繊維のいろいろ(表1)
繊維の定義(JISによる)
 糸,織物などの構成単位で,太さに比して,じゅうぶん長さを持つ,細くてたわみやすいもの
繊維を大きく分けると次のようになります.
天然繊維
  植物繊維 綿など
  動物繊維 毛など
人工繊維
  合成繊維 ポリエステルなど
  再生繊維 レーヨンなど
繊維についての説明(リンク)
個々の繊維についての説明(リンク)
2.植物繊維利用の歴史
 植物繊維を取り出して,衣類にするのは手間がかかります.おそらく植物繊維の最初の利用は動物の毛皮を縫いつける糸としての利用から始まったといわれています.
 最初に利用された植物繊維は,麻の利用です.麻という植物はなく,古代エジプトでは亜麻,万葉の時代の日本では大麻や苧麻(チョマ)を利用しました.
 インド,新大陸では綿を利用しました.この綿が日本に伝来したのは戦国時代あたりです.この綿と植物としてのワタが日本における近代的工業の芽生えとなりました.ワタという作物は加工して付加価値を農家としてつけることができました.

 ワタおよびその紡績,織物は西洋においても,近代工業(産業革命)の原動力となりました.
日本の綿の歴史(リンク)
 産業革命によって,綿製品は激増し,1800年頃は毛80%に対し,麻15%,綿5%だったのが,1900年頃には綿80%,毛20%になりました.
 しかし,19世紀後半になると人工的な繊維が登場します.最初に登場したのは天然繊維から作られる再生繊維(レーヨン)でした.20世紀になると石油などから合成されたまったく新しい繊維である合成繊維(ナイロンなど)が登場します.合成繊維は天然繊維よりも強靱であり,品質が安定しているので衣類以外の用途(ロープ,網,袋など)ではほとんど合成繊維に置き換わっていきます.
 現在では化繊が半数以上を占め,綿がそれに次ぎます.
日本化学繊維協会による化学繊維(合成繊維,再生繊維)の説明などがあります.
衣類の場合,繊維を目的にあわせて混紡して利用することが多くなりました.例えば,ポリエステルと綿の混紡では,吸湿性,染色性のよい綿,強度が高く,扱いやすいポリエステルの特性が組み合わさります.また,ポリエステルと麻の混紡ではしわになりやすい麻,吸湿性の劣るポリエステルの欠点を相補します.
B.植物繊維
1.植物繊維の特徴(図6)
( 吸水性  )が高いので,( 吸湿 )・( 吸水 )に優れています.

( 通気性 )が高いので,夏は ( 涼しい )

( 保温性 )が高いので,冬は ( 暖かい )という特性があります.

植物繊維は( 中空  )なので,通気性,保温性が高いのです.

生分解性があります.しかし,セルロースを分解できる動物,微生物は意外と限られるので,保存性もあります
セルロースの構造があります(下の方ですが・・・)
2.セルロースの構造
セルロースは( グルコース )が重合してできたものです.セルロースは植物が作る物質で最も多い,つまり自然界に最も多く存在する有機物です.同じようにグルコースが重合してできたデンプンとは重合の仕方が違います.

 セルロースは人間でも消化できるデンプンとは異なり,たいていの動物は分解できません.ウシなどの反芻動物は胃内にセルロースを分解できる微生物を持ち,彼らの助けを借りて,植物繊維を栄養とするのです.さらにセルロースは親水基をたくさん持つので,高分子でありながら高い親水性を持ちます.衣類として,虫に侵されにくく,吸湿性の高いセルロースの利点は大きいといえます.

3.植物繊維の種類
 セルロースを主成分とする植物繊維ですが,その採集部位からいくつかに分類されます.
 種子毛繊維 綿のようにワタの種子の表面に伸びた繊維です.種皮の一部が毛のように伸びます.

 靭皮繊維
  双子葉植物の茎の二次師部(形成層の分裂によってその外側に発達する師部)を靭皮といいます.
  その靭皮に発達した繊維を靭皮繊維といいます.靭皮繊維は茎を水につけて発酵させて取り出すことが一般的です.麻のうち,アマ,チョマ,タイマなどから得られるものが靭皮繊維になります..

 葉脈繊維
  単子葉植物の葉鞘の葉脈から取り出した繊維を葉脈繊維といいます.靭皮繊維と異なり,木部と師部を分けられません.そこで機械的に葉脈の繊維をはぎ取ります.繊維は強靱ですが,衣類には適しません.

その他の植物繊維としてはココヤシには果実の中に繊維が発達します.
4.植物繊維の利用
植物繊維は種々の利用方法があります.その一例を以下に記述します.
衣料 ワタ,麻(アマ,チョマ)
ロープ,網など バインダーひも(黄麻:ジュート)
袋・かご ジュート袋・籐など
ほうき・たわし シュロ,ヤシの繊維から
敷物  イグサ,シチトウイ
紙   コウゾ,ミツマタ
C.繊維料作物一般論
1.繊維収量を増やすには
 繊維料作物の繊維収量を増やすにはどうすればいいでしょうか?まず光合成を増やすのが基本となります.なぜなら
 光合成産物の( グルコース  )が重合して( セルロース )となるからです.植物繊維の役割は植物体を機械的に支持する役割(細胞壁の主成分)を主に果たしていますから,植物体が大きければそれだけセルロースは多くなるはずです(特に靭皮繊維や葉脈繊維).ただし種子毛繊維を収穫対象とするワタは種子数を増やすので植物体を大きくすればいいというほど単純ではありませんが.

 植物は一度合成したセルロースを分解して利用することはほとんどないと考えられるので,繊維を増やすだけならどんどん大きく育ててやればよいことになります.ここが同じグルコースを出発点として合成されるデンプン,糖,油脂などの貯蔵物質との違いです.貯蔵物質は植物が利用して少なくなることもあるので,いかに蓄積させるかが栽培の上で重要になりますが,植物繊維はそうではありません.しかし,植物体を大きくすれば,品質のよい繊維を効率的に得られるわけではありません.

まず茎の太さと靭皮繊維の関係について考えます.
  靭皮繊維をとる場合,茎が細いほど繊維歩合は高まります.しかし,茎が細いと倒伏などの機械的な傷害に弱くなります..
植物繊維は品質が重要視されます.植物繊維に要求される品質は以下の通りです.
 1.繊維が長い方が良質です.
 2.繊維が柔軟な方が衣類には向きます.
 3.繊維が強い方が良質です.
 4.リグニンなどの不純物が少ない方が良質です.リグニンは土壌水分の不足などストレスが植物に加わると増加します.さらに靭皮繊維では開花後に茎にリグニンが蓄積します.
繊維の品質を向上させるにはどうしたらいいでしょうか?
@ 靭皮繊維を収穫する双子葉植物の場合は分枝させないことが重要です.
   靭皮繊維の場合,分枝するとその部分で繊維が切れて,繊維が短くなります.
  分枝させないためには
   ( 品種 )の選択 分枝しやすい品種としにくい品種があります.
   ( 密植 )すると分枝しにくくなります.
   ( 窒素肥料 )はゆっくり効かせます.そのためには(有機質肥料 )を使うといいでしょう.窒素肥料が効くと分枝しやすくなります.しかし,窒素肥料がほとんど効いていないと茎の上への成長すら抑えられます.主茎が上に成長しながらも,分枝がほとんどないような程度に窒素肥料を効かせます.

A 適期の収穫も大切です.
 とくに靭皮繊維をとる作物では,開花以降,老化にともない,繊維に( リグニン )が増えます. ( リグニン )は繊維を粗剛にし,もろくし,黄変化しやすくします.したがって, ( 開花 )後,すみやかに適期に収穫することが大切です. 
 さらに土壌水分欠乏などのストレスを与えないことも重要です.
D.繊維料作物各論
ワタ(Gossypium spp.)
1.その来歴 アオイ科Gossypium属に属する数種の作物からなります.
1) Gossypium herbaceum L. シロバナワタ AAゲノムからなる2倍体(2n=26).現在,インドから中近東で栽培されています.
2) Gossypium herbaceum L. キダチワタ AAゲノムからなる2倍体(2n=26).かつてインド,中国などのアジアで広く栽培され,日本で江戸時代から戦前まで栽培されました.品質が劣るために現在ではあまり栽培されません.
3) Gossypium barbadense L. ペルーワタ・海島綿 AADDゲノムからなる複2倍体(2n=52).アメリカ東部海岸・島嶼部で栽培される.エジプトには入り,現地の改良品種と交雑して,エジプト綿となりました.繊維長が長く,天然よりが多く,強度も強く,品質はもっとも良いです.病気などに弱いので栽培適地は限られます.
4) Gossypium hirsutum L. リクチメン AADDゲノムからなる複2倍体(2n=52).現在,最も広く栽培されます.
海島綿の紹介です(リンク)
ワタの繊維の特徴は,
 繊維は( 中空 )です.
 靭皮繊維,葉脈繊維と異なり,天然のよりがあり,糸を紡ぎやすいのが大きな特長です.
 ( 吸湿性  )・( 保温性 )が高いです.l
ワタの繊維の構造です(リンク)
ワタの種類と品質
 繊維の( 長い )もの,天然よりの( 多い )ものが良質です.

 海島綿(シーアイランド綿)は最高の品質の綿が取れます

 現在では短繊維のインド綿は布団の中綿,脱脂綿などに,中繊維のアメリカ綿はいろいろな用途に,長繊維,超長繊維のエジプト綿,海島綿は高級品にもちいます.

国名

収穫面積

(万ha

収量

t/ha

生産量

(万t

1.中国

569

3.3

1896

2.アメリカ

528

2.4

1254

3.インド

897

0.9

770

4.パキスタン

319

2.2

730

5.ブラジル

115

3.3

379

表3 ワタ(実綿)の主要生産国(2004年,FAO統計から)
2.ワタの利用
綿毛に包まれた種子である実綿(みわた)を収穫し,綿毛を分離します.こうして分離した綿毛を原綿あるいは綿花といいます.種子からは綿実油を取ります.


3.ワタの生育
  ワタは虫媒花ですが,自家受粉します.
  ワタの果実を凾ニいいます.凾ヘ3から5室に分かれ,各室には7,8個程度の種子があります.種子の表面に伸びた毛が収穫対象です.
ワタの開絮
 綿の凾ヘ発育につれて水分を失い,剩轤ェ裂けて,中の実綿が現れます.綿花とは綿の種子を包む白い繊維のことを指します.
生育後期のワタ
 良質なワタを得るには
  ( 栄養生長期 )から( 綿毛伸長期 )にかけて適度の( 降水 )があること.
  ( 開花期 ),( 成熟期 ),( 収穫期 )には( 晴天 )が続くこと.
が必要です.

ワタの結果枝
 ワタでは実の着く( 結果枝 )と実の着かない( 発育枝 )があります.
ワタの個体模式図
 ワタはたくさんの( 果実 )をつけることが多収への道です.そのためには
 ( 結果枝 )を多くつけ,つまりよく枝分かれさせることが必要です.したがって,
 適度に( 窒素 )肥料を効かせる必要があります.しかし, あまり( 窒素 )肥料を効かせすぎると花や実が落ちてしまうことがあります.
3.ワタの栽培
生育期間を十分に取ることが必要です.本来,熱帯性の作物であるワタは夏が相対的に短い日本では早生品種でないと育てられない.そのため,収量は低く,品質も劣ります.

実綿がぬれると品質が下がりますので,収穫期は晴天が望ましいです.日本では秋雨などのため,品質が低下しやすくなります.

有効着蕾期間に十分な生育をさせます.そのためには(肥料,光,水)を十分に与えます.


ワタに最適な栽培条件は以下の通りです.
  生育期間を十分に取ること
  年平均気温( 15 )℃以上が基本条件
      (南北緯( 40 )度以下)

  無霜期間( 180から200 )日以上
  雨量年間( 500 )mm以上
  晴天日が生育期間の( 40 )%以上
麻類
麻 双子葉植物の靭皮繊維と単子葉植物の葉脈繊維を総称して麻といいます.
日本では衣料用の麻と表示できるのは亜麻(リネン)と苧麻(ラミー)だけと決められています.

麻の衣料としての特性
  清涼感がある 熱伝導が高く,すぐに体温を放散
         吸湿・発散も速やか
  衛生的    通気性に富み,バクテリアの発生を抑える
  強度が強い  特に水につけると強度が増すので繰り返しの洗濯に耐える

アマ(リネン・リンネル)
1.その来歴
Linum utitatissimum L.
中近東から地中海沿岸地方原産です.アマ科の1年生植物です.
西洋では古くから利用されました(lineの語源はリンネルの糸から)

2.アマの利用
繊維としての利用が主となり,低温・湿潤を好む北方型と油糧作物としての利用が主となり,高温・乾燥を好む南方型とがあります.北方型は昭和40年代はじめまで北海道北見地方で栽培されていました.
吸湿性に優れ,柔らかなので衣服,寝具,寝間着に利用されます.
中国,フランス,ロシアでの生産が多いです.
日本麻紡績協会から亜麻についての説明
苧麻(ラミー)
1.その来歴
Boehmeria nivea Gaud
カラムシともよばれ,日本でも雑草としてよくみかけます.イラクサ科の多年生植物です.
中国,あるいは東南アジア原産とされます.現在,中国での生産が圧倒的に多いです.

青苧(あおそ):靭皮を収穫したもの
日本でも飛鳥時代以前から栽培され,越後上布,宮古上布など各地の名産品となっていました.

2.繊維の利用
多年生植物で年数回,刈り取ります.
吸湿性に優れ,しかも丈夫です.日本ではタイマから得た麻に比べ,高級な麻でした.

大麻(タイマ・ヘンプ) Cannabis sativa L.
クワ科に属する1年生草本・雌雄異株の作物です.繊維は強く,栽培が容易です.
温帯に適しており,日本でも多収できますが,現在は栽培は許可がないとできません栃木県で栽培が残っています.
麻薬成分を含みますが,品種改良により麻薬成分を含有しないものもできています.
中国での生産が多いです.
日本麻紡績協会から苧麻についての説明
日本麻紡績協会から大麻の説明
黄麻(ジュート) Corchorus capsularis L.
シナノキ科に属する1年生草本です.インド,バングラデシュなどで栽培されます.
繊維収量が最も高い作物です.
繊維の質は劣りますが,安価なので,農産物を入れる袋やひもなどによく利用します.
播種から収穫まで約100日と短いのも特長です.
開花期あるいはその直後が収穫適期です.
日本麻紡績協会から黄麻の説明
サイザル麻の紹介(リンク)
ケナフ Hibiscus cannabinus L.
アオイ科に属する1年生作物です.黄麻と同じように繊維の品質は劣ります.単位面積当たりの繊維生産量が多く,二酸化炭素を多量に吸収することから非木材の紙原料として注目されています.
マニラ麻 Musa textilis Nee
単子葉植物であり,葉鞘の維管束を繊維として用います.
マニラ麻は強靱で弾力性に富み,しかも水に強いので,船舶用ロープなどに使います.バショウ科に属します.熱帯作物で,乾燥に弱いのですが,浸水には強いです.吸枝で繁殖します.
フィリピン特産です.
サイザル Agave sisalana Perrine

リュウゼツラン科に属するメキシコ原産の多年生単子葉植物です.
サイザルは繊維の質はマニラ麻には劣りますが,相当な乾燥地でも生育できます.
植付から3〜4年で収穫を始めることができ,収穫開始から10年程度は収穫できます.
植え付けから10〜20年で老成し,開花すると枯れます.珠芽あるいはひこばえによる栄養繁殖を行います.
ブラジル,タンザニア,ケニアなどで栽培されます.
花は咲くのですが,稔性がほとんどありません.開花した後に枝の上に珠芽ができます.
珠芽とはむかごのことで,茎軸上にできた芽が主軸からの連絡を絶って,独立し,別の個体の出発点になったものだと岩波生物学辞典には説明してあります.
サイザルの紹介(英語のリンク)
天然繊維素材の説明(リンク)
マニラ麻の紹介(リンク)
ケナフの紹介(リンク)