国名 | デンプン質原料 | 糖質原料 |
ブラジル | サトウキビ | |
アメリカ | トウモロコシ | |
ヨーロッパ | コムギ,ライムギ | テンサイ,廃ワイン |
オーストラリア | トウモロコシ | サトウキビ |
インド | サトウキビ | |
タイ | キャッサバ | サトウキビ |
中国 | トウモロコシ |
横浜市の独自の分析によると,最終エネルギー消費量のうち,家庭が22.6%になりますが,これは自家用自動車を除いたものです.自家用自動車(家庭だけでなく,運輸ではない業務自動車も含みますが)は14.3%にものぼります.いかに自動車のエネルギー消費が大きいかわかります.
では自動車やめたら・・・とはなかなかいきません.石油枯渇,CO2排出削減のためにガソリンや軽油に頼らない自動車が求められていることになります.
人類はいつからこんなにエネルギーを莫大に消費するようになったのでしょうか?石谷久編著「有限の地球と人間活動」(オーム社,1993)79ページを参考に計算した結果を高橋英一著「肥料になった鉱物の物語」(研成社,2004)163ページに掲載されているのをみますと
狩猟時代末期が5900kcal(食料が3300+民生・サービス2600):たぶん食事と調理の薪(森林資源)なのでしょう.
原始農業時代が12100kcal:さらにウシ,ウマなどの家畜の労働が追加,ただし自給なので,輸送はない
農業時代27600kcal:ウマなどによる輸送(交易),さらに軽工業も開始
近代工業時代77400kcal:石炭,石油による近代工業の発展
となるそうです.
現在でも実はバイオエネルギーは世界エネルギーの消費の10%を占め,特にアフリカではほぼ半分のエネルギーをいまでもバイオエネルギー(薪,家畜の糞,わらなど)が担っています.日本ではバイオエネルギーの占める割合は1%にすぎません.
ではいまなぜバイオエネルギーなのでしょうか?
1.石油とくに安価で精製が容易な高品質の原油が枯渇し始めたこと
石油の埋蔵量は実は政治的なかけひきもあって,統計は本当かどうか分からないというそうです.どちらにしても1970年代の石油ショックの時からあと30年とかいっています.しかし,採掘に費用がかからず,取り出した原油をガソリンなどにするのも簡単な原油は確実に枯渇しています.その辺はターツァキアン著の「石油最後の1バレル」(英治出版,2006)に強調されています.
2.バイオエネルギーは安価に生産できること
将来的には太陽電池,燃料電池なども普及するでしょうが,これらは開発段階であったり,製造コストが高かったり,レアメタルを使うので資源を取り合ったりするので,しばらくはゆっくりと普及するようです.しかし,バイオエネルギーのもとになるトウモロコシ,サトウキビなどの生産を増やすのはあまりコストがかかりませんし,収穫物からバイオエタノールやバイオディーゼル燃料を作るコストもそれほど高くありません.
3.CO2削減に寄与すること
植物は光合成して,CO2を吸収し,燃料として使っても元に戻るので,過去の二酸化炭素を閉じ込めた化石燃料のように大気中のCO2を結局増やすということはありません(といってもバイオエネルギー製造にある程度,化石燃料を使わざるをえないのですが)
4.既存のインフラを活用できる
電気自動車の普及にはどこでも充電できるスタンドを全国にくまなく用意する必要があります.バイオエタノールやバイオディーゼル燃料は現在のガソリンスタンドを利用できます.またどのぐらいガソリンや軽油に混ぜるかによりますが,自動車を改造する必要があまりありません.電気自動車のように新しい高価な自動車そのものを買う必要がなく,今乗っている自動車でもE3(エタノールをガソリンに3%だけ入れる)のバイオエタノールなら速実行できるというメリットもあります.
2.バイオエタノールの種類
バイオエタノールは糖類を酵母で発酵させてエタノールを得ます.糖類をどの原料から得るかでおおまかに3種類に分かれます
( 糖質 )系バイオエタノール
サトウキビやテンサイのような糖料作物の糖(主にスクロース)からエタノールを得るものです.効率が一番高いです.
( デンプン )系バイオエタノール
トウモロコシ,イネなどのデンプンをまず酵素で糖に変えてからエタノールを得ます.デンプンの糖化にエネルギーとコストがかかります.しかし,サトウキビやテンサイは栽培適地が限られますが,農業のできるところならどこでも栽培できるというメリットがあります.
( セルロース )系バイオエタノール
わらなどに含まれるセルロースを加水分解などの処理で糖化してからエタノールを得ます.エネルギーとコストがデンプン系バイオエタノール以上にかかります.しかし,わらは人間の食料とは直接,競合しませんし,多年生の牧草であれば栽培のコストとエネルギーは低く抑えられます.農業の不適なところでも生産は可能です.
3.アメリカでのバイオエタノール
アメリカでは大気汚染対策から一酸化炭素を減らすことのできるMTBE(メチルターシャリーブチルエーテル)をガソリンに混和することを義務づけた州がありましたが,有毒性と地下水汚染が指摘されたので,エタノールを混ぜるように転換しました.さらに産業振興(コーンベルトのある中西部は人口流出が著しいそうです)や石油の節約などの目的もあります.
4.ブラジルでのバイオエタノール
石油ショック以降,ブラジルではサトウキビからバイオエタノールを生産し,自動車を走らせる政策が推し進められました.サトウキビからのバイオエタノール生産は効率が最も高いといわれています.
5.セルロース系バイオエタノール
サトウキビの生産できるところは限られますし,デンプン系バイオエタノールの原料は人間の食料と競合します.そこでトウモロコシのわらなどを利用したら,さらには多年生草本を利用してわら専用の生産をし,そこからエタノールを確保する計画もあります.
6.バイオエタノールの主要生産国と各国の風土に適した原料
(大聖泰弘ら編 「図解バイオエタノール最前線」 工業調査会から
原料別のエタノール収量(アメリカ農業省調べ)
(大聖泰弘ら編 「図解バイオエタノール最前線」 工業調査会から
原料 |
重量あたり |
耕地面積あたりエタノール収量(L/t) |
トウモロコシ |
336.9 |
2132.7 |
オオムギ |
333.1 |
860.6 |
ソルガム |
325.5 |
1262.8 |
コムギ |
302.8 |
692.2 |
イネ |
302.8 |
1636.9 |
サツマイモ |
128.7 |
1777.2 |
ジャガイモ |
87.1 |
2796.8 |
テンサイ |
83.3 |
3853.8 |
サトウキビ |
56.8 |
5191.4 |
7.本当に石油を節約できるのか?
実際にはバイオエタノールの生産(バイオエタノール作物の栽培,収穫物の輸送,エタノールの生産の主要3過程を中心にする)には化石燃料の投入が必要です.したがって,バイオエタノールを生産して,自動車を動かしても結果的に石油を節約できたかどうかが問題になります.
効率の高いサトウキビのバイオエタノールでは化石燃料投入に対し,7.6倍のエネルギーのバイオエタノールが得られるという試算があります.
8.日本でのバイオエタノールの事例
2.BDFの製造法
(1) 油脂のエステル交換反応
もともとディーゼルエンジンの発明者であるディーゼルは落花生油をそのまま利用したそうです.しかし,植物油脂は粘性が高いですから,粘性を低下させるために,現在では油脂をメチルエステル化して使用します.反応にはアルカリを触媒として用いるアルカリ触媒法が一般的に利用されます.しかし,日本のBDFは水分などの不純物の多い廃油を利用するケースが多いので,種々の方法が考え出されています.
(2)植物原料によるBDF特性の違い
ヤシ油(ココヤシ),パーム核油は飽和脂肪酸が多く,酸化安定性が高いですし,低温でも固まりにくいのですが,相対的に高価です.ダイズ,ヒマワリはリノール酸が多いので,低温で固まりにくいですが,酸化しやすい欠点があります.パーム油は安価ですが,低温で固まりやすい欠点があります.
3.ドイツにおけるBDF
ナタネ油によるBDFの世界一の生産・消費国です.ナタネはドイツの耕地の約12%で栽培されるまでになっています.軽油に5%から100%まで混和します.
4.日本におけるBDF
廃食油によるBDFが広まり,最近では村おこしの一環でナタネ,ヒマワリの栽培が景観作物とBDFのための油料作物をかねて各地で展開されるようになりました.
D.太陽エネルギーと地球
1.地球に降り注いだ太陽エネルギーの行方(単位は10の20乗kJ/年です)
太陽から54.4
そのうち光合成に利用されるエネルギー 0.08 → このごくわずかが埋積(未来の石油・石炭)? <0.01%
現在の蓄積された化石燃料 0.53 → 0.003消費
水の蒸発エネルギー 12.5
風力 0.11
水力 0.00638
潮汐・波・海流 0.0013
地表に到達する太陽エネルギーは38.1 これは人類のエネルギー消費60分程度に相当
人類の必要なエネルギー 0.0042
3.純一次生産力
純一次生産力=植物の光合成による総生産量-呼吸による損失
実際に植物が増加したバイオマスをエネルギーや乾物重で評価します.光合成しない生物はこの純一次生産量を利用することになります(ごくわずかの例外を除けば)
気象(気温,降水量,日射量など)から純一次生産力を推定することもできます.また植生から判断することもできます.
E.農業の投入されるエネルギー
ルーミス,コナー著「食料生産の生態学」(農林統計協会)第3巻にアメリカコーンベルトでのトウモロコシ栽培のエネルギー分析が載っています.それを引用しますと以下の通りです.
表10 1975年のインディアナ州でのトウモロコシ栽培におけるエネルギー収支
投入エネルギー |
ha当たりの量 |
MJ ha−1 |
労働 |
3.8hr |
280 |
機械一式 |
150ha規模の農場 |
366 |
燃料 ディーゼル |
55L |
2104 |
ガソリン |
29L |
1136 |
肥料 窒素 |
167kg |
13000 |
リン |
78kg |
1097 |
カリウム |
110kg |
1076 |
種子 |
26kg |
384 |
除草剤 |
4L |
1314 |
乾燥 燃料 |
|
2607 |
電気 |
|
86 |
合計 |
|
23500 |
トウモロコシ収量(8.8g ha−1) |
|
146800 |
出力/入力比 |
6.2 |
|
しかし,そんなに窒素肥料がいるなら節約できないのかということになります.しかし,窒素肥料あるいは植物の吸収した窒素量は収量と高い正の相関関係があることが,たいていの穀物では認められます(もちろん窒素をやりすぎると病虫害が増え,倒伏が増え,さらに過繁茂で収量が減ります.適切なレベルの窒素量の範囲でということです)
近代農業では窒素肥料を主とした肥料と農業機械にエネルギーを投じます.一方,畜力の割合は減りました.
しかし,そうはいってもコムギの栽培に利用されるエネルギーは,コムギがパンになって食卓にのぼるまでの総エネルギーの40%という試算もあり,パンを小麦粉にしたり,焼いたり,輸送したりするのに60%が使われるそうです.だから大規模農業のトラクターや窒素肥料によるエネルギー消費を減らそうとする試みはあまり効果がないのかもしれません.
それから農業機械や輸送のための機関車や自動車の登場は別の効果をもたらしました.
1800年頃にはイギリスには135万頭の馬がいて,100万頭以上が旅客や貨物の輸送に利用されたそうです(残りは農耕用などでしょうか?).これが蒸気機関車に置き換わった結果,畑が開放されました.1頭の馬は4エーカーの畑が必要だったそうです.100万頭で400万エーカーは穀物にして800万人分の食料生産できる面積に相当し,当時のイギリスの人口は1000万人程度だったそうです(高橋英一著「肥料になった鉱物の物語」(研成社,2004)による).
試算の根拠はわかりませんが,ルーミス,コナー著「食料生産の生態学」(農林統計協会)第3巻によりますと,農場がエネルギーを自給自足する,すなわち耕耘,肥料などを自給のバイオエネルギーで行うとしたら,農場の15%程度を必要とするそうです.これはあくまでの農場だけを化石燃料を使わずに,エネルギーを自給したらなので,農業以外のエネルギーを農業で自足しようとしたら,1800年代のイギリスなみになるのでしょうか?当時よりエネルギーを何倍も使っているので,それ以下になるかもしれません.