第7回 エネルギー作物

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国名 デンプン質原料 糖質原料
ブラジル サトウキビ
アメリカ トウモロコシ
ヨーロッパ コムギ,ライムギ テンサイ,廃ワイン
オーストラリア トウモロコシ サトウキビ
インド サトウキビ
タイ キャッサバ サトウキビ
中国 トウモロコシ
C.バイオディーゼル
1.バイオディーゼルとは
(1) バイオディーゼル燃料(BDF)の定義
★ 油糧作物(なたね、ひまわり、パーム)や廃食用油といった油脂を原料として製造する軽油代替燃料をバイオディーゼル燃料といいます.
★ BDF は、化石燃料由来の燃料に比べ、大気中のCO2 を増加させません(製造の段階である程度化石燃料を使いますが・・・).ディーゼル自動車はヨーロッパなどでは増加しています.ディーゼルエンジンは耐久性があるので,コストが安く済み,燃費も高いので,CO2排出も少なくてすみます.

(2)BDFの特性
★ 引火点は軽油より高いので,安全性は高いです.
★ 軽油より硫黄酸化物は少なくなります(硫黄は原油に多く含まれます).一方,窒素酸化物は増加します.
★ 軽油より粘度が高く,特に低温では配管などに詰まる原因になります.寒冷地での使用は注意が必要です.
A.生活とエネルギー
1.現代の生活
 現代の私たちの生活では大量のエネルギーを消費しています.
 経済産業省資源エネルギー庁のホームページには毎年,発表されるエネルギー白書が掲載されています.
 エネルギー白書2009のP107には家庭部門におけるエネルギー源の推移があり,1965年度では石炭他が35%と一番割合が高かったのに対し,2007年度ではエネルギー全体の消費は2.4倍に増加し,内訳では電気の消費が45%と最も高い割合を占めるようになっています.さらに同じページには何のために家庭でエネルギーを消費したかの内訳も示され,1965年では給湯34%,暖房31%でしたが,2007年では動力・照明他34%,給湯30%,暖房22%となっています.
 このように電気の消費が家庭で増加したのは,テレビ,パソコン,エアコン,冷蔵庫などが普及したからですが,ではなぜ,今バイオエタノールとか,バイオディーゼルとかいうのでしょうか?このような統計では家庭のエネルギー消費に自動車分が加味されないのでよくわからないかもしれません.
B.バイオエタノール
1.バイオエタノールとは?
(1) バイオエタノールの定義
 サトウキビやトウモロコシなどの植物資源から得られた原料を発酵・蒸留して製造されるエタノールをバイオエタノールといいます.自動車燃料としての利用が近年,増加しています.古来,飲用,
灯火用などにも用いられ,工業用としての利用も多くなりました.2003 年においてエタノールは68%が燃料用,22%が飲料用,10%が工業用として消費されました. 
 エタノールをガソリン自動車のガソリンに混ぜるとどういう特徴があるかというと,
★ エタノール自身が酸素を含むので,不完全燃焼が避けられ,一酸化炭素やススが出にくくなります(大気汚染対策)
★ オクタン価がガソリンより高いです
★ エタノールは金属,ゴム,プラスチックを腐食させるので,ガソリンに混ぜる濃度を高くすると自動車に適切な改造が必要になります.日本では3%までは大丈夫ということでE3(エタノール3%)のガソリンが市販されるようになりました.
★ エタノールそのものではなく,エタノールとイソブチレンを化合させたエチルターシャリーブチルエーテル(ETBE)というものもあり,フランスではこちらが利用されるようです(日本も輸入して,一部のガソリンスタンドで登場しました).
エネルギー白書2009(産業経済省資源エネルギー庁のホームページから)

 横浜市の独自の分析によると,最終エネルギー消費量のうち,家庭が22.6%になりますが,これは自家用自動車を除いたものです.自家用自動車(家庭だけでなく,運輸ではない業務自動車も含みますが)は14.3%にものぼります.いかに自動車のエネルギー消費が大きいかわかります.

 では自動車やめたら・・・とはなかなかいきません.石油枯渇,CO2排出削減のためにガソリンや軽油に頼らない自動車が求められていることになります.

横浜市の地域エネルギービジョン(この中の3章 部門別エネルギーの消費と課題に)

 人類はいつからこんなにエネルギーを莫大に消費するようになったのでしょうか?石谷久編著「有限の地球と人間活動」(オーム社,1993)79ページを参考に計算した結果を高橋英一著「肥料になった鉱物の物語」(研成社,2004)163ページに掲載されているのをみますと

 狩猟時代末期が5900kcal(食料が3300+民生・サービス2600):たぶん食事と調理の薪(森林資源)なのでしょう.
原始農業時代が12100kcal:さらにウシ,ウマなどの家畜の労働が追加,ただし自給なので,輸送はない
農業時代27600kcal:ウマなどによる輸送(交易),さらに軽工業も開始
近代工業時代77400kcal:石炭,石油による近代工業の発展

となるそうです.

 現在でも実はバイオエネルギーは世界エネルギーの消費の10%を占め,特にアフリカではほぼ半分のエネルギーをいまでもバイオエネルギー(薪,家畜の糞,わらなど)が担っています.日本ではバイオエネルギーの占める割合は1%にすぎません.

 ではいまなぜバイオエネルギーなのでしょうか?

1.石油とくに安価で精製が容易な高品質の原油が枯渇し始めたこと
 石油の埋蔵量は実は政治的なかけひきもあって,統計は本当かどうか分からないというそうです.どちらにしても1970年代の石油ショックの時からあと30年とかいっています.しかし,採掘に費用がかからず,取り出した原油をガソリンなどにするのも簡単な原油は確実に枯渇しています.その辺はターツァキアン著の「石油最後の1バレル」(英治出版,2006)に強調されています.

2.バイオエネルギーは安価に生産できること
 将来的には太陽電池,燃料電池なども普及するでしょうが,これらは開発段階であったり,製造コストが高かったり,レアメタルを使うので資源を取り合ったりするので,しばらくはゆっくりと普及するようです.しかし,バイオエネルギーのもとになるトウモロコシ,サトウキビなどの生産を増やすのはあまりコストがかかりませんし,収穫物からバイオエタノールやバイオディーゼル燃料を作るコストもそれほど高くありません.

3.CO2削減に寄与すること
 植物は光合成して,CO2を吸収し,燃料として使っても元に戻るので,過去の二酸化炭素を閉じ込めた化石燃料のように大気中のCO2を結局増やすということはありません(といってもバイオエネルギー製造にある程度,化石燃料を使わざるをえないのですが)

4.既存のインフラを活用できる
 電気自動車の普及にはどこでも充電できるスタンドを全国にくまなく用意する必要があります.バイオエタノールやバイオディーゼル燃料は現在のガソリンスタンドを利用できます.またどのぐらいガソリンや軽油に混ぜるかによりますが,自動車を改造する必要があまりありません.電気自動車のように新しい高価な自動車そのものを買う必要がなく,今乗っている自動車でもE3(エタノールをガソリンに3%だけ入れる)のバイオエタノールなら速実行できるというメリットもあります.

2.バイオエタノールの種類
 バイオエタノールは糖類を酵母で発酵させてエタノールを得ます.糖類をどの原料から得るかでおおまかに3種類に分かれます

( 糖質 )系バイオエタノール
 サトウキビやテンサイのような糖料作物の糖(主にスクロース)からエタノールを得るものです.効率が一番高いです.

( デンプン )系バイオエタノール
 トウモロコシ,イネなどのデンプンをまず酵素で糖に変えてからエタノールを得ます.デンプンの糖化にエネルギーとコストがかかります.しかし,サトウキビやテンサイは栽培適地が限られますが,農業のできるところならどこでも栽培できるというメリットがあります.

( セルロース )系バイオエタノール
 わらなどに含まれるセルロースを加水分解などの処理で糖化してからエタノールを得ます.エネルギーとコストがデンプン系バイオエタノール以上にかかります.しかし,わらは人間の食料とは直接,競合しませんし,多年生の牧草であれば栽培のコストとエネルギーは低く抑えられます.農業の不適なところでも生産は可能です.

3.アメリカでのバイオエタノール

 アメリカでは大気汚染対策から一酸化炭素を減らすことのできるMTBE(メチルターシャリーブチルエーテル)をガソリンに混和することを義務づけた州がありましたが,有毒性と地下水汚染が指摘されたので,エタノールを混ぜるように転換しました.さらに産業振興(コーンベルトのある中西部は人口流出が著しいそうです)や石油の節約などの目的もあります.

4.ブラジルでのバイオエタノール

 石油ショック以降,ブラジルではサトウキビからバイオエタノールを生産し,自動車を走らせる政策が推し進められました.サトウキビからのバイオエタノール生産は効率が最も高いといわれています.

5.セルロース系バイオエタノール

 サトウキビの生産できるところは限られますし,デンプン系バイオエタノールの原料は人間の食料と競合します.そこでトウモロコシのわらなどを利用したら,さらには多年生草本を利用してわら専用の生産をし,そこからエタノールを確保する計画もあります.

6.バイオエタノールの主要生産国と各国の風土に適した原料
(大聖泰弘ら編 「図解バイオエタノール最前線」 工業調査会から

原料別のエタノール収量(アメリカ農業省調べ)
(大聖泰弘ら編 「図解バイオエタノール最前線」 工業調査会から

原料

重量あたりエタノール収量(L/t

耕地面積あたりエタノール収量(L/t

トウモロコシ

336.9

2132.7

オオムギ

333.1

860.6

ソルガム

325.5

1262.8

コムギ

302.8

692.2

イネ

302.8

1636.9

サツマイモ

128.7

1777.2

ジャガイモ

87.1

2796.8

テンサイ

83.3

3853.8

サトウキビ

56.8

5191.4

7.本当に石油を節約できるのか?

 実際にはバイオエタノールの生産(バイオエタノール作物の栽培,収穫物の輸送,エタノールの生産の主要3過程を中心にする)には化石燃料の投入が必要です.したがって,バイオエタノールを生産して,自動車を動かしても結果的に石油を節約できたかどうかが問題になります.
 効率の高いサトウキビのバイオエタノールでは化石燃料投入に対し,7.6倍のエネルギーのバイオエタノールが得られるという試算があります.

8.日本でのバイオエタノールの事例

「イネイネ・日本プロジェクト」について

2.BDFの製造法
(1) 油脂のエステル交換反応
 もともとディーゼルエンジンの発明者であるディーゼルは落花生油をそのまま利用したそうです.しかし,植物油脂は粘性が高いですから,粘性を低下させるために,現在では油脂をメチルエステル化して使用します.反応にはアルカリを触媒として用いるアルカリ触媒法が一般的に利用されます.しかし,日本のBDFは水分などの不純物の多い廃油を利用するケースが多いので,種々の方法が考え出されています.

(2)植物原料によるBDF特性の違い
 ヤシ油(ココヤシ),パーム核油は飽和脂肪酸が多く,酸化安定性が高いですし,低温でも固まりにくいのですが,相対的に高価です.ダイズ,ヒマワリはリノール酸が多いので,低温で固まりにくいですが,酸化しやすい欠点があります.パーム油は安価ですが,低温で固まりやすい欠点があります.

3.ドイツにおけるBDF

 ナタネ油によるBDFの世界一の生産・消費国です.ナタネはドイツの耕地の約12%で栽培されるまでになっています.軽油に5%から100%まで混和します.

4.日本におけるBDF
 廃食油によるBDFが広まり,最近では村おこしの一環でナタネ,ヒマワリの栽培が景観作物とBDFのための油料作物をかねて各地で展開されるようになりました.

斐川町のヒマワリの記事

D.太陽エネルギーと地球

スピロ・スティリアニ著「地球環境の化学」(学会出版センター)を参考にして地球のエネルギーと人類のエネルギー消費をまとめてみました.
2.人類の消費するエネルギーはどれだけか?(単位:10の20乗kJ/年)

太陽から宇宙へ放射されるエネルギー  1.17×10の11乗
地球に入射する太陽エネルギー          54.4
地球の気候や生物圏に影響するエネルギー  38.1
水の蒸発に使われるエネルギー         12.5
風力エネルギー                   0.109
光合成に使われる太陽エネルギー       0.0836
純1次生産に使われるエネルギー       0.0372
人類が消費した全1次エネルギー(1990)    0.00368
化石エネルギー消費量(1990)          0.00297
潮汐と波力のエネルギー             0.00126
米国の全エネルギー消費量(1990)      0.000837
人類が消費した食糧のエネルギー(1990)   0.000188

1.地球に降り注いだ太陽エネルギーの行方(単位は10の20乗kJ/年です)
 太陽から54.4

 そのうち光合成に利用されるエネルギー 0.08 → このごくわずかが埋積(未来の石油・石炭)? <0.01%
 現在の蓄積された化石燃料 0.53 → 0.003消費
 水の蒸発エネルギー 12.5
 風力 0.11
 水力 0.00638
 潮汐・波・海流 0.0013

 地表に到達する太陽エネルギーは38.1 これは人類のエネルギー消費60分程度に相当

 人類の必要なエネルギー 0.0042

3.純一次生産力
 純一次生産力=植物の光合成による総生産量-呼吸による損失

 実際に植物が増加したバイオマスをエネルギーや乾物重で評価します.光合成しない生物はこの純一次生産量を利用することになります(ごくわずかの例外を除けば)

 気象(気温,降水量,日射量など)から純一次生産力を推定することもできます.また植生から判断することもできます.

E.農業の投入されるエネルギー

ルーミス,コナー著「食料生産の生態学」(農林統計協会)第3巻にアメリカコーンベルトでのトウモロコシ栽培のエネルギー分析が載っています.それを引用しますと以下の通りです.

表10 1975年のインディアナ州でのトウモロコシ栽培におけるエネルギー収支

投入エネルギー

ha当たりの量

MJ ha1

労働

3.8hr

280

機械一式

150ha規模の農場

366

燃料 ディーゼル

55L

2104

   ガソリン

29L

1136

肥料 窒素

167kg

13000

   リン

78kg

1097

   カリウム

110kg

1076

種子

26kg

384

除草剤

4L

1314

乾燥 燃料

 

2607

   電気

 

86

合計

 

23500

トウモロコシ収量(8.8g ha1)

 

146800

出力/入力比

6.2

 

 エネルギー消費の約55%を窒素肥料に使っていることがわかります.トラクター14%,子実の乾燥11%,リン酸とカリ肥料9%,除草剤6%です.なおアメリカやオーストラリアでは畑で子実をどれだけ乾燥させるかは重要な問題です.乾燥に使うエネルギーによるコストは大きいですが,一方,乾燥しすぎると品質の低下を招く可能性もありますし,規模が大きいですから全部を適切な水分状態で収穫できるわけでもないからです.

 しかし,そんなに窒素肥料がいるなら節約できないのかということになります.しかし,窒素肥料あるいは植物の吸収した窒素量は収量と高い正の相関関係があることが,たいていの穀物では認められます(もちろん窒素をやりすぎると病虫害が増え,倒伏が増え,さらに過繁茂で収量が減ります.適切なレベルの窒素量の範囲でということです)

 近代農業では窒素肥料を主とした肥料と農業機械にエネルギーを投じます.一方,畜力の割合は減りました.
 しかし,そうはいってもコムギの栽培に利用されるエネルギーは,コムギがパンになって食卓にのぼるまでの総エネルギーの40%という試算もあり,パンを小麦粉にしたり,焼いたり,輸送したりするのに60%が使われるそうです.だから大規模農業のトラクターや窒素肥料によるエネルギー消費を減らそうとする試みはあまり効果がないのかもしれません.

 それから農業機械や輸送のための機関車や自動車の登場は別の効果をもたらしました.
 1800年頃にはイギリスには135万頭の馬がいて,100万頭以上が旅客や貨物の輸送に利用されたそうです(残りは農耕用などでしょうか?).これが蒸気機関車に置き換わった結果,畑が開放されました.1頭の馬は4エーカーの畑が必要だったそうです.100万頭で400万エーカーは穀物にして800万人分の食料生産できる面積に相当し,当時のイギリスの人口は1000万人程度だったそうです(高橋英一著「肥料になった鉱物の物語」(研成社,2004)による).
 
 試算の根拠はわかりませんが,ルーミス,コナー著「食料生産の生態学」(農林統計協会)第3巻によりますと,農場がエネルギーを自給自足する,すなわち耕耘,肥料などを自給のバイオエネルギーで行うとしたら,農場の15%程度を必要とするそうです.これはあくまでの農場だけを化石燃料を使わずに,エネルギーを自給したらなので,農業以外のエネルギーを農業で自足しようとしたら,1800年代のイギリスなみになるのでしょうか?当時よりエネルギーを何倍も使っているので,それ以下になるかもしれません.

参考文献
図解バイオエタノール最前線 大聖泰弘ら編 工業調査会
図解バイオディーゼル最前線 松村正利ら編 工業調査会
バイオディーゼル 山根浩二 東京図書出版会
食糧生産の生態学III 堀江武ら編 農業技術協会 第15章
地球環境の化学 スピロ・スティリアニ 学会出版センター