第3回 デンプン料作物(総論),第4回 デンプン料作物(各論),コンニャク

トップ アイコン
トップページヘもどる

デンプン,グルコースについての化学的説明は以下のホームページを参考にしてください.
 デンプンは水には溶けませんが,水に入れて加熱すると糊状(αデンプンになった状態)になります.デンプンが糊化し始める温度,糊化したときの粘りの強さ,デンプンの老化の早さ(糊化したデンプンが再び粘りを失うこと,βデンプンに戻った状態です)はデンプンを採集した植物の種によって異なります.古来,カタクリ,ワラビ,クズの3つの植物から日本人はデンプンを得たのですが,この3つから得たデンプンの性質の違いを生かした利用をしてきました.
 明治始めに編集された葛粉一覧ではクズ,カタクリ,ワラビについて,さらに澱粉一覧という本ではそれ以外のデンプンをとる植物が紹介されています.
(食材として    ) 葛粉,ワラビ粉,片栗粉
              コーンスターチ,ジャガイモデンプンからできた片栗粉

(加工食品     ) 練り製品(かまぼこ,ちくわなど),麺類

(工業原料     ) 糊,製紙,接着剤,インクなど
*デンプンをむかし採集した植物
A デンプンを分解して利用するもの
 デンプンはグルコース(ブドウ糖)が重合してできたものですから,分解すればグルコース,あるいは完全にグルコースまで分解しないデキストリンなどが得られます.さらにグルコースに異性化酵素を作用させるとグルコースとフルクトース(果糖)の混合物(異性化糖)が得られます.よくジュースの原材料に入っているブドウ糖・果糖・液糖というのはこの異性化糖のことです.

(   水飴      )
(さまざまな代用糖 ) ブドウ糖・果糖・液糖
               オリゴ糖
(  デキストリン  )
B 発酵させて利用するもの
( アルコール飲料 ) ビール,発泡酒の原料であるコーンスターチはトウモロコシデンプンです.
( 工業用あるいは燃料用 )アルコール
救荒作物として ソテツ,ヒガンバナ
 種子と樹幹にデンプンを蓄えるソテツ,鱗茎に蓄えるヒガンバナは飢饉の時に利用されました.しかし,どちらも有毒物質を含みますので,デンプンをとるときはよく水にさらして毒を抜く必要がありました.
ソテツは沖縄県では一時,デンプン料作物として栽培し,工業的にデンプン採取されていました.このときの調査では単位面積当たりのデンプン生産量はサツマイモの2倍でサゴヤシに匹敵するという結果が出たそうです.
 花が咲くときには葉をつけず,葉がデンプンを蓄えて,花が咲くと一度に根に蓄えたデンプンを種子へ運ぶ植物はいろいろあり,しかもこの特性からこのような植物は人間によく利用されます(正確には花が咲く前に,蓄えたものを横取りしているのかもしれませんが・・・).ただし日本のヒガンバナは3倍体なので種子ができないそうです.原産地の中国には2倍体があり,種子ができるそうです.
 このようにデンプンあるいはその他の高分子炭水化物を蓄積して,花が咲くときには葉がなく,実に貯蔵デンプン(あるいはその他の高分子炭水化物)を転流させる作物にはコンニャク,サゴヤシなどがあります.
2.現在利用されるデンプン料作物
(1) 子実を利用するもの
 種子にデンプンを蓄積する作物,イネ,コムギ,トウモロコシからデンプンを採集できます.しかし,トウモロコシ以外は食用として利用することがほとんどでデンプンを取り出すということはあまりしません.トウモロコシデンプン(コーンスターチ)は多量に得られる,安価なデンプンとして種々に利用されます.世界のデンプン生産の80%近くをトウモロコシが占めるそうです(このPDFによるhttp://library.wur.nl/wda/dissertations/dis3450.pdf
(2) 根あるいは地下茎を利用するもの
 ジャガイモ,サツマイモは日本ではデンプンを工業的に取り出す作物としても栽培されます.
 熱帯ではキャッサバがその高い単位面積当たりのデンプン生産力からよく栽培されます.

(3) その他
 サゴヤシというヤシ類は幹にデンプンを蓄積する性質があります.この幹に蓄積したデンプンを採集します.

C.その他高分子炭水化物を貯蔵する作物
 フルクトース(果糖)が重合したイヌリンを蓄積するキクイモ,グルコースとマンノースが重合したグルコマンナンを蓄積するコンニャクなどデンプン以外の高分子炭水化物を蓄積する作物もあります.
ジャガイモデンプンは大きな,丸い粒,トウモロコシデンプンは小さく,角張った粒というようにデンプンの形,大きさが種によって異なります.この結果,デンプンの理化学特性(水に溶いて,加熱するとどの温度から糊化し始めるか,最大粘度,老化の早さなど)が異なります.ジャガイモデンプンは低い温度から糊化し始め,最高粘度が高いが,老化は早い,トウモロコシデンプンは高い温度にならないと糊化を始めず,最高粘度はあまり高くありません.このようなデンプンの特性をアミログラフという測定装置によってアミログラムというグラフでみることができます.
(2) デンプンの利用割合
 日本ではデンプンの60%程度が異性化糖など代用糖類の生産に利用されます.そのほか水産練り製品(かまぼこ,ちくわ),製紙,化工デンプン,ビール,発泡酒などに利用されます.
E.デンプン収量を増やすためには
1.デンプンとは?
デンプンとは( 光合成 )産物であるグルコースが重合してできたものです.基本的には光合成を増やす必要があります.
 しかし,窒素を与えれば与えるほど光合成が増えるのではなく,最適な窒素施肥量があります.窒素を与えすぎると葉面積指数が増えすぎて,葉どうしがお互いに光を遮る相互遮蔽,茎などが伸びすぎるために起こる倒伏などによって,受光体勢の悪化,葉身の枯死などでかえって光合成が低下します.さらに代謝や新しい器官を作ろうとするために起こる呼吸の増大などによって光合成産物の消費も増えてしまいます.
 いも類の場合,窒素を与えると地上部の生長が優先され,地下部のイモは大きくならないことがよくあります(つるぼけ).この場合,地上部と地下部を含めた総光合成量が増えても,イモが少なければ,収量は低くなります.
 デンプン料作物の栽培は基本的にはできるだけ早く葉面積を確保し,光合成を十分に行わせること,生育後半はあまり窒素をあたえずにデンプンを収穫器官に蓄積させるようにします.
F.いも類と穀類の違いは?
1.ストレスに弱い穀類と貯蔵困難ないも類
 穀類(イネ科作物)は受精しないとそれまでにいくら光合成しようと実ができないという特徴があります.穀類は葉面積指数は出穂の頃に最高となり,その後,急速に低下するように,光合成能力がピークである期間が比較的短い傾向にあります.熱帯では台風,干ばつ,洪水,病虫害などの種々のストレスが起こりやすいので穀類よりもいも類の方が収穫物を確実に確保できるといえます.
 しかし,貯蔵性はいも類はかなり劣ります.キャッサバは収穫後,すぐに腐り始めますし,サツマイモ,ジャガイモも長期保存は困難です.穀類は一方,長期保存に適しています.
 生産コストの点ではいも類は植付,収穫とも,穀類に比べて機械化が難しく,コストがかかります.
 
 沖縄,鹿児島,宮崎ではサツマイモがよく栽培されます.これはイネに比べて台風,水害に強いからですが,一方,サツマイモは苗作り,移植,収穫の手間が,機械化の進んだイネよりもかかります.
2.いも類の貯蔵とキュアリング
 いも類を長期間保存する技術としてキュアリングがあります.いもを特定の条件に置くと,イモの傷口や表皮の下にコルク層を作ります.このコルク層によって,菌類の侵入を抑制し,保存性を高めます.キュアリングに必要な条件は以下の通りです.

ジャガイモ
 仮貯蔵  ( 20 )℃以上・湿度( 95 )%でコルク化

 本貯蔵  風通しのよい冷暗所
      ( 0〜8  )℃・湿度( 70 )%

サツマイモ
 キュアリング 湿度( 90〜95 )%・( 33 )℃で( 3〜4 )日間

 貯蔵適温 ( 13 )℃
G.各論
 気候,土壌,経済などの影響を受けて,国や地域によって異なるデンプン用作物が栽培されています.

トウモロコシ(作物としての説明は別の教員の担当する食料作物学関連の講義に譲ります)
 トウモロコシは食用作物,飼料作物,工芸作物(デンプン料作物,油料作物)という多彩な面を持ちます.C4植物という高い光合成能力,土壌もあまり選ばず,機械化適応性が高いなど種々の点で優れています.1999年において日本のトウモロコシ輸入量は1625万トンと米の収穫高835万トンの倍近くあります.
 ときどき米を食わなくなったのはパンのせいだ,コムギの輸入のせいだという人がいますが,コムギの輸入は1970年頃にピークに達してからほとんど変わっていません.一方,トウモロコシの輸入はずっと増え続けています.一人当たりのトウモロコシ消費量は1999年で128.6kgで,米74.3kg,コムギ48.8kgを凌駕します.
 日本に輸入されるトウモロコシの80%が飼料に,20%がデンプン利用に回ります.
 となると,米を食わなくなったのは,肉,コーン油,発泡酒,ビール,異性化糖を使ったジュース,スナック菓子など何にでも化けることのできるトウモロコシのほうが重要でしょう.しかも,この統計では外国で餌としてトウモロコシを与えられた肉を通したトウモロコシの消費量は計算に入らないので,実際はもっと大量のトウモロコシを日本人は消費しているはずです(今はトウモロコシで肥育されるアメリカ産牛肉は輸入ストップだけど).たしかにトウモロコシそのものを食べる量はたいしたことがないのであまり意識はしませんが・・・

その他 ジャガイモの説明のリンク集です.
サツマイモ
日本では生育に適した高温の時期が限定されるので,育苗が重要となります.加温して早めに移植して,生食用として高く売れるサツマイモ栽培を目指すこともありますが,デンプン生産では低コストでないといけないので,無加温の冷床育苗で育苗します.

つる性なので台風に強く,また干害に強いので,気象災害の多い南九州や沖縄の基幹作物となりました
しかし,育苗などの手間のため労働生産性は高くありません.
キャッサバ
Manihot esculenta Crantz  トウダイグサ科の多年生の草本生低木です.
キャッサバのデンプンをタピオカといいます.アミロース含量が低く粘性が高く,タンパク質や繊維など不純物の少ないという特徴のあるデンプンです.

野生種は知られていませんが,数千年前から中南米で栽培されていました.
有毒なシアン化合物を含みますが,その量が多い苦味種と少ない甘味種とに大別できます.デンプンを採取する目的では,生産力の高い苦味種を用います.

キャッサバは熱帯のデンプン料作物の中でもっともデンプン生産力が高いものの一つです.しかも不良土壌(強酸性土壌)に耐えます.ただし湿害には弱いです.

繁殖は茎による栄養繁殖です.
 主要生産国は下の表の通りです.アフリカ諸国では自家消費される食用目的での栽培が多く,東南アジアでは,デンプンをヨーロッパなどに輸出する目的での栽培が多いです.ヨーロッパでは輸入したタピオカを配合飼料に入れ,家畜の飼料に使います.
 熱帯の発展途上国にとって,重要な作物ですので,近年のその育種的改良などキャッサバの研究が国際的に熱心に行われています. 
http://www.tropilab.com/manihot-esc.html
サゴヤシ
Metroxylon sagu Rottb ヤシ科の多年生植物です.
熱帯に多い不良土壌(耐塩性,耐湿性)に耐えます.キャッサバが湿害に弱いのでそれを補う形になります.
http://plants.usda.gov/cgi_bin/topics.cgi?earl=plant_profile.cgi&symbol=MAES
http://www.plantapalm.com/vpe/photos/Species/metroxylon_sagu.htm
http://www.thaipalms.com/encyclopedia/Metroxylonsagu.html
検索するときは学名Metroxylon saguを使って検索するといいでしょう.学名をクオーテーションマークで囲うと絞り込めます.
参考文献
工芸作物学 栗原浩編 農山漁村文化協会,澱粉と植物 藤本滋生 葦書房,コーン製品の知識 菊池一徳 幸書房,工芸作物学 西川五郎著 農業図書
さらに知りたい人は
ジャガイモ 
 現代農業技術双書 バレイショ 栗原浩 家の光協会
作物食物文化選書 ジャガイモ―その人とのかかわり― 梅村芳樹 古今書院
 じゃがいもMiNi白書 ホームページ http://www.jsai.gr.jp/
サツマイモ
現代農業技術双書 カンショ
作物食物文化選書 サツマイモのきた道 小林仁 古今書院
さつまいもMiNi白書 ホームページ http://www.jsai.gr.jp/
トウモロコシ コーン製品の知識 菊池一徳 幸書房
キャッサバ キャッサバ 熱帯農業シリーズ熱帯作物要覧 広瀬昌平ほか 国際農林業協力協会
サゴヤシ サゴヤシ学会 http://www.bio.mie-u.ac.jp/~ehara/saga/sago-j.html
コンニャク 風土と環境 栗原浩 農山漁村文化協会(コンニャクの自然生栽培がくわしい)
      コンニャク会社のホームページ http://www.konnyaku.com/
      コンニャクのいろいろ http://www.max.hi-ho.ne.jp/konjackey/index.html
国名 収穫面積(万ha) 収量(t/ha) 生産量(万t)
ナイジェリア 381 12.0 4572
ブラジル 190 14.0 2671
タイ 107 21.1 2258
インドネシア 122 16.3 1993
コンゴ民主共和国 185 8.1 1497
http://www1.plala.or.jp/maui/starch/sago.htm
http://www1.plala.or.jp/maui/starch/cassava.htm
キャッサバ
表1 キャッサバの主要生産国(2006年,FAO統計から)
ジャガイモ
  生育適温 日平均気温(10 )〜(23 )℃です.北海道では盛夏でも23℃を越えませんので,長い夏の昼を生かして,十分に光合成してデンプンを蓄積できます.

  しかし,生育適温の時期は,西日本では春と秋に分かれてしまいます.したがって,短い生育期間しかないので,収量を高くするのは難しいです.

 秋作は生育期間が(短く ),しかも温度が下がっていく季節に栽培しますので,休眠性が( 少ない )品種を栽培します.デジマ,ニシユタカなどの品種が秋作に向きます.

 栽培で重要なのはたねいもの選択です.病気とくにウイルス病にかかっていないたねいもを取り寄せます.萌芽し始めたたねいもを植え付けると速やかに出芽し,葉面積を早期に確保できます.たねいもに日光を当てる浴光催芽法によって萌芽を促進することができます.
楽しい高校の化学から天然高分子 糖類
アミロースとアミロペクチンの分子模型
生化学の基礎から糖質
A.デンプンの用途
1.デンプンとは
 デンプンとは,グルコース(ブドウ糖)が重合してできた高分子です.
2.デンプンの用途
 ではデンプンはどんな用途に利用するのでしょうか?主に3つに分けられます.
(1) デンプンの高分子特性を利用するもの
ワラビ
カタクリ
クズ
異性化糖などを作るブドウ糖工場の案内
異性化糖の説明
B.デンプンのとれる作物
1.古くから利用されてきたもの  クズ・カタクリ・ワラビ
ヒガンバナ ヒガンバナは毎年,秋の彼岸の頃に一斉に咲きますが,ここでは開花習性も述べられていますl
ソテツ
ヒガンバナの生活環です.
キクイモ
JICA MONO変身図鑑から トウモロコシ
D.デンプンの特性の違い
(1) 作物によるデンプンの違い
サツモイモデンプンの研究ですが,ジャガイモなど他の作物のデンプンとの比較もあります(PDF)
ジャガイモデンプンの形,特性
いろいろな植物のデンプンを調べた小学生の自由研究から
2.光合成を増やすには?
 光合成をする器官である( 葉 )を大きくする:正確には葉面積指数を高めることが必要です.
さらに光を多く受け止めるには,葉面積指数が高ければよいわけではなく,葉身が直立するなど受光体勢がよい方が光合成量が増えます.あるいは単位葉面積当たりの光合成速度を高めるには葉身の含むクロロフィル含量を高めるとよいでしょう.
 葉面積も葉身クロロフィル含量も窒素に大きく支配されますから,窒素施肥をたくさんすれば光合成が増えることになります(単純に考えれば).
浴光催芽法の説明(下の方です)
ジャガイモ博物館
日本いも類研究会
日本いも類研究会
その他 サツマイモの説明のリンク集です.
JICA MONO変身図鑑から サツマイモ
その他 キャッサバの説明のリンク集です.
サゴヤシ学会(日本)