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島根大学大学院自然科学研究科 物質化学コース

Department of Chemistry

Graduate School of Natural Science and Technology
Shimane University

研究内容RESEARCH

  

 本研究室では、有機・高分子合成技術を駆使することにより、おもしろい機能を発現する有機分子や高分子、超分子化合物を創り出すことを目指し研究を行っています。特に入手容易な天然由来の有機分子を出発物質として用いた環境調和型触媒および機能性分子の開発や、高分子・超分子の精密設計および高次構造制御による特異な機能の創出に挑むとともに、得られた新規化合物を活かした低環境負荷型触媒反応の開発やユニークな機能性材料の創製にも積極的に挑戦します。以下にこれまで行ったいくつかの研究課題を紹介します。



有機分子触媒を用いた環境調和型触媒反応の開発

 触媒機能を有する有機化合物である「有機分子触媒」は、高価かつ入手困難でしばしば汚染の原因にもなっていた希少金属を含有しないことから、環境負荷の低いグリーンな触媒として近年注目を集めています。当研究室では生体酵素の機能を模倣した有機分子触媒を用い、グリーン・サスティナブルケミストリー(環境にやさしい持続可能な化学)の概念に合致する、環境負荷を低減した新しい分子変換技術の開発を進めています。
 例えば、ビタミンB2類縁体のフラビン触媒を用いた反応系の開発を進め、高価な試薬を使い有害廃棄物や副生成物を多く生じる従来の反応に代わり、空気中の酸素を反応試薬として用い無害な水のみが副生成物として生じるような環境調和型触媒反応系の開発に取り組んでいます。

有機分子触媒についてもう少し知りたい人は(学部生向け):「有機分子触媒の化学」の紹介(ケムステ)
関連論文(フラビン触媒, 酸素酸化的分子変換反応):ACS Catal., 2017, 7, 4986-4989; Green Chem., 2018, 20, 984-988; Org. Lett., 2020, 22, 8002; Adv. Synth. Catal., 2024, 366, 402-407
関連論文(フラビン触媒, 光触媒反応):Org. Lett. 2020, 22, 9244

カニ殻由来のキチン類を活用した機能性材料の開発

 山陰両県で豊富に漁獲されるカニの殻や腱は、天然由来のキラルな高分子であるキチン・キトサンで構成され、それらが規則的に整列したユニークな高次構造を有しています。当研究室では地域で産出する天然資源であるキチン類に着目し、それらの特性や高次構造を活かした超分子触媒などの機能性材料の開発を進めています。


リボフラビンを用いた機能性分子および高分子・超分子材料の開発

 牛乳などに含まれるリボフラビン(ビタミンB2)は身近に存在し、生体内で重要かつ多彩な機能を司っている機能性有機分子です。このリボフラビンを導入した人工高分子・超分子は興味深い機能性材料となることが期待されますが、世界的に見ても報告例はほとんどありません。我々はこれまでの研究でリボフラビンを主鎖骨格に有する高分子の合成に世界で初めて成功しています。この高分子を含有したフィルムは、アミン蒸気に曝露させると瞬時に色や蛍光が変化することが分かり、アミン蒸気のキラリティをも識別できる初めての光学センシング材料として、今後の展開が期待されています。また、リボフラビン誘導体を、上述した環境負荷を低減するグリーンな環境調和型有機分子触媒として応用する研究も進めています。




高次構造を制御した新規な高分子・超分子の合成と機能性材料への応用

 機能性分子を導入した高分子や超分子の構造を精密に設計し、形成する高次構造を制御することができれば、導入した機能性分子をナノスケールのオーダーで綺麗に整列させることが可能になり、単分子では発現し得ない特異な機能を付与することができます。このような高分子・超分子の高次構造制御技術の深化と機能発現メカニズムの詳細な解析を行うことにより、革新的機能を有する有機材料の創製に繋がることが期待されます。例えば、これまでに天然由来の光学活性な有機触媒を側鎖に有する種々の高分子を合成することに成功し、それらが右巻きあるいは左巻きの一方向巻きに片寄ったらせん状の高次構造を形成することを明らかにしています。得られた高分子は、ナノスケールで精密に制御されたらせん構造の影響により単分子では発現しない高い不斉選択性や不斉識別能を示し、良好な高分子不斉触媒や光学分割材料として機能することを見出しています。


 上述の通り、当研究室ではいすれも持続可能な開発目標(SDGs)の達成に寄与する試みを積極的に行っています。




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