ホリデイ・トレッキング・クラブ
 
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宍道湖、三瓶ダムでのカビ臭生産微生物 

 島根県の宍道湖で強いカビ臭が発生し、シジミなどからもカビ臭がする事件がありました。カビ臭生産細菌を調査すると、宍道湖に常在するシアノバクテリアCoelosphaerium sp.がカビ臭のする化合物ジェオスミン(Geosmin)を作っていました。さらにジェオスミンを生産しないCoelosphaerium sp.も単離されました。生産株と非生産株を簡便に識別して計数し、宍道湖でのカビ臭発生を予測、制御する手法の開発を目的に遺伝学的な観点から研究してい  ます 
 三瓶ダムでもカビ臭が問題になっています。カビ臭原因化合物がジェオスミンの時期と、2-メチルイソボルネオール(2-Methylisoborneol, 2-MIB)の時期があります。三瓶ダムでは、浅いところではシアノバクテリアが、底の部分では放線菌と呼ばれる細菌がカビ臭を生産していると推定されています。ダムでのカビ臭発生による経済的な損失を防ぐ方法の開発を目的に、主にカビ臭生産放線菌の種類や生態を研究しています。宍道湖や三瓶ダムの微生物を研究することで、地域に貢献したいと思っています。
 

雨が降ったときの土っぽい臭いが本研究のカビ臭です。

除草剤2,4-D分解細菌

 自然環境には存在しない人工化合物を分解できる微生物がいます。それらの微生物はなぜこれまで触れたことのない化合物も分解できるのかという問いを解明するために、除草剤2,4-ジクロロフェノキシ酢酸(2,4-D)分解細菌の分解能力を遺伝学的観点から研究しています。長期間にわたり2,4-Dが使用されてきた場所に2,4-D分解細菌がいるだけでなく、今までに一度も2,4-Dが散布されていない土壌からも2,4-D分解細菌が分離されています。2,4-D分解細菌の分解能に関与する遺伝子を同定してきました。さらに2,4-D非分解細菌の中にも、2,4-D分解能に関与する遺伝子を持っている細菌がいることが明らかになりました。どのようにして2,4-D分解能が獲得されてきたのかという進化的な機構の解明を目指して、2,4-D分解能に関与する遺伝子を、分解細菌と非分解細菌の両面から調査しています。 
 

分解菌はなぜ人工物を分解できるのでしょう?

南極藻類の分類と遷移

 島根大学教育学部の大谷教授と共に、南極から分離された藻類の同定を行っています。形態観察では種同定が難しい株を中心に、遺伝学的手法を用いて同定しています。同定結果を基にして、南極での藻類遷移を種レベルで解析することを目指しています。

いつか南極に行ってみたいですね。

根粒菌のクオラムセンシング

  微生物には目も口も耳もありませんが、どうやら周辺の仲間の数(密度)を把握しているということがわかっています。微生物は同種の密度を認識し、密度に合わせて自身の形質を集団で制御しています。具体的には、低密度の時には増殖することに注力し、高密度になってから発光物質や抗生物質の生産、病原性の発揮などを開始することがわかっています。そうすることで、細胞1つ1つの能力(光の強さや病原性毒素の生産量)は小さいが、集団で同時に発揮することで全体として十分な形質を示すことができます。低密度の時にも発光物質の生産や病原性の発揮しようとすると十分でなく、エネルギーの無駄になるだけでなく宿主の抵抗性が働いて生存に不利になってしまうため、このようなシステムがあると考えられます。このシステムのことをクオラムセンシング [Quorum Sensing]と呼びます。
 どのように微生物が周辺の同種の密度を認識しているかと言うと、微生物がシグナル因子(この分野ではオートインデューサー [Autoinducer]と呼ばれます。)と呼ばれる種特異的な化合物を分泌し、それの密度を化学的に感知することで、密度を認識しています。シグナル因子は種ごとに異なっており、正確に同種の密度を感知するのに役立っています。オートインデューサーはある細胞から発され、別の細胞に感知されるので、微生物の言語のようであると言えます。微生物のフェロモンのような化合物と言った方がより正確です。動植物のように微生物も同種他個体とやり取りをして共生していると言えます。
 魚に寄生する発光細菌や抗生物質を生産する放線菌、作物に病気を引き起こす植物病原細菌がクオラムセンシングを用いて、密度依存的に形質の発現を制御していることがわかっています。マメ科植物に根粒を形成する根粒菌もクオラムセンシングを用いて、密度依存的に形質の発現を制御していることがわかってきました。ですが、種ごとのオートインデューサーの化学構造や、形質発現の機構については分かってないことがたくさんあります。私のグループでは、根粒菌のクオラムセンシングの機構を理解することで、根粒菌の土壌中での共生を理解し、最終的には農業に利用することを目指して研究しています。
 

根粒菌はどんな会話をしているのでしょう?

オクラの内生菌

 多くの植物の根の内部に微生物が生息していることが明らかになっています。それらの微生物のことを植物内生菌と呼びます。植物内生菌は植物の生長を助けたり、病害抵抗性を与えたりしている例が報告されています。最も有名な例の1つは、マメ科植物の根粒です。根粒内では、根粒菌と宿主植物が共生関係を構築しています。本研究では、オクラでもマメ科植物と根粒菌のような共生関係があるのではないかと考え調査しています。 
 

夏にオクラを食べますか?