鈴木グループの研究内容
構造有機化学研究室では、色素化合物の有機合成化学・構造有機化学に立脚し、将来の機能性分子科学に有用な骨格を提案するべく“新奇”芳香族化合物の創製を展開しています。その上で、目的志向型トップダウン手法よりも出たとこ勝負なボトムアップ手法を極める研究方針で取り組みます。
ベンゼン(亀の甲)をはじめとする芳香族化合物は、有機化学だけでなく、化学分野全体を象徴していると言えます。芳香族性は、言うまでもなく有機化学研究における最重要概念のひとつですが、それは分子の安定化に要約できます。すなわち、可能な場合、分子は芳香族性を獲得するように自発変化を起こし、この安定化を受けようとします。これを上回る寄与を与えることで、芳香族性骨格よりも優先する構造を導き出せれば、通常炭素-炭素結合からなることが多い芳香族分子の設計指針を拡充することができるようになると期待されます。
【共鳴】や【水素結合】という、分子の安定化に寄与する作用を駆使し、芳香族より安定な非芳香族に導く。 ▼参考文献▼ RSC Adv. 2020, 10, 39033–39036.
芳香族化合物は一般に剛直な平面構造を持ちます。そのπ電子系を拡張することはHOMO-LUMOギャップの減少による光吸収帯の広範囲化をはじめとする様々な内部エネルギー状態の改変をもたらします。しかしながら、π平面を大きくするほど分子同士が集積しやすくなり、溶解性が低下することで実験室的な取り扱いが困難になります。そこで分子骨格のゆがみ・分岐・集合などを利用して、湾曲したπ平面による空間的な非局在化をはかり、最小限の構造修飾による最大限のπ電子系拡張を狙います。こうした三次元性はフラーレンやカーボンナノチューブ、いわゆるナノカーボン材料にも見られるものであり、ナノテクノロジー等を発展させる重要概念と認識されています。
芳香環を【ゆがませる・分岐させる・集合させる】ことで三次元的なπ電子空間を構築する。 ▼参考文献▼ J. Porphyr. Phthalocyanines 2025, 29, 280–286. Chem. Pharm. Bull. 2023, 71, 424–427. J. Porphyrins Phthalocyanines 2023, 27, 1097–1102. J. Porphyrins Phthalocyanines 2020, 24, 135–142. J. Porphyrins Phthalocyanines 2016, 20, 738–743. Chem. Lett. 2014, 43, 1563–1565.
ベンゼンに代表される芳香族化合物は剛直かつ安定であると知られています。 それは柔軟性を示すほど骨格の自由度がないためでもあり、通常は安定化を受けられる最小単位で形成されようとしてしまいます。 したがってπ共役骨格の拡張は容易ではなく、こうして拡張された骨格は、運動自由度の上昇により柔軟性を帯びます。 主鎖・側鎖および両者間、さらにはゲスト分子の立体障害や電子的勾配、水素結合などによって準安定コンフォメーションの優先順位が決定され、その三次元構造に応じて同一分子でありながら物性の異なる全く別の化合物として振る舞います。 この分子運動を動力源として利用するべく、安定化メカニズムやゲスト分子との相互作用形態の解明を通じて人為的な制御法を確立し、ナノレベルでの遠隔操作複合分子システムの構築を目指します。
▼参考文献▼ J. Porphyrins Phthalocyanines 2021, 25, 1064–1071. Chem. Eur. J. 2007, 13, 196–202. Chem. Commun. 2005, 3685–3687.
多くの色素分子に共通してみられる板状構造は腫瘍組織への集積性が高い傾向にあり、これを利用した各種ガン治療法が研究されています。 例えば、外部刺激応答性を利用した画像診断や光線力学療法などがありますが、この作用に大きく影響する非線形光学(NLO)特性が芳香族性の有無に関連していることが明らかになってきました。 一方、NLO材料は超微細三次元加工技術による高密度記録素子の実現も可能にすると言われています。 すなわち、上記のアイデアをも駆使して新しい芳香族化合物を開発することは人々の生活を豊かにする技術につながると言えます。
▼参考文献▼ ChemistrySelect 2020, 5, 7217–7221. Tetrahedron 2017, 73, 6780–6785. Eur. J. Org. Chem. 2015, 17, 3824–3829. Tetrahedron Lett. 2011, 52, 7164–7167.
他研究室とも積極的に共同研究を行っています。 基本的にメインターゲットは、例えば金属錯体なら有機分子たる配位子の有機合成化学です。 この場合、本研究室において合成された配位子は、常磁性金属イオンと錯形成させることで生物無機化学的な知見を得るべく各種分光学測定にかけられます。 ▼成果▼ Org. Biomol. Chem. 2020, 18, 5334–5338. Chem. Asian J. 2019, 14, 4169–4173. Chem. Asian J. 2019, 14, 4169–4173. J. Inorg. Biochem. 2018, 178, 115–124. Dalton Trans. 2017, 72, 242-249. Eur. J. Inorg. Chem. 2017, 10, 1374–1381. Eur. J. Org. Chem. 2015, 17, 3824–3829. Tetrahedron Lett. 2011, 52, 7164–7167.
当研究室が主体となる論文中で発表されたもののうち、代表的なものを選出しています。
|