(2)真偽を推測する(統計的検定)
例:シロクマチョコレートを買うと,20個に1個の割合でシロクマのぬいぐるみが当たる.どうしてもシロクマのぬいぐるみがほしいAさんはシロクマチョコレートを50個買ったのに1つも当たらなかった.Aさんはシロクマチョコレート株式会社はうそつきだと断定した.しかし,その推論は正しいか?

 50個シロクマチョコレートを買っても1つもシロクマのぬいぐるみが当たらない確率は二項分を利用すると0.077です.

エクセルによる計算法はこちらです

 この確率はあまりにも小さいから不自然なのでシロクマチョコレート株式会社は嘘をついたと判断できるでしょうか?あるいはたまには起きそうなことなので嘘をついたとは断言できないのでしょうか?

 20個に1個の割合でシロクマのぬいぐるみが当たるのだから20個買うと1個は当たりそうにふつうの人は期待します.しかし,20個のシロクマチョコレートを買って,ぬいぐるみが1個当たる確率は0.377です.これほど確率が低いのは20個シロクマチョコレートを買って,2個以上当たる幸運な人がいるからで,その確率は0.264です.

エクセルによる計算法はこちらです

 このように確率分布を使うと標本(この場合,数を決めて購入したシロクマチョコレートのくじ)から母集団(シロクマチョコレート株式会社が作るすべてのシロクマチョコレートのくじ)について推論することができます.このような確率分布を利用した推論(推定と検定)については第6回以降の授業で学びます.

第4回 二項分布・ポアソン分布・正規分布

少なくとも一つは当たる確率を95%以上にするには59個以上,ぬいぐるみを買えばよいという答えになります.しかし,それだけ買うと,2個あるいは3個当たる確率が一番高くなり,0.230の確率になります.平均では59×0.05で,2.95個のぬいぐるみが当たります.

第4回の授業で配布したプリント(PDF)
二項分布の練習問題
 母平均μが与えられたときに事象がx回出現する確率を表すポアソン分布をエクセルで計算する式は以下の通りです.
1.二項分布
3.ポアソン分布
ポアソン分布では母平均μ=母分散σです.
4.正規分布

 正規分布は自然界で起こる現象の多くがその分布に当てはまること,特に平均値に関する分布が当てはまることから,統計学では最も重要な分布となっています.
エクセルでの二項分布の計算
3.二項分布とポアソン分布の正規分布での近似
 計算機の発達していない時代では二項分布とポアソン分布の計算はかなり面倒でした.いまでもnの大きい二項分布は正規分布に近似した方がよい場合もあるかもしれません(あまりに大きい階乗を計算するとエラーになることもあるし,桁落ちして誤差が大きくなりやすいので).しかし,たいていの用途ではパソコンで統計解析するときには,二項分布やポアソン分布のままで計算できるでしょう.
以上の二項分布の計算はエクセルを使うと簡単にできます.
1の出る回数 二項分布に基づく確率
0 0.16
1 0.32
2 0.29
3 0.16
4 0.05
5 0.01
6 0.00
7 0.00
8 0.00
9 0.00
10 0.00

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2.ポアソン分布の一般式

 母平均μが与えられたときに事象がx回出現する確率を表すポアソン分布の一般式は以下の通りです.

 ポアソン分布は二項分布において平均npを一定にして,nを無限大にすると得られます.すなわち確率pはきわめて小さい値ということになります.確率・統計入門(小針晛宏,岩波書店)のP63(ポアソン分布)に照明があります.

エクセルによるポアソン分布の一般式による計算
二項分布の具体的な例として,さいころを10回振って,1の出る回数xの確率分布を考えましょう.下の図表のようになります.
エクセルによる計算方法はこちらです
二項分布の一般式による計算方法
さいころを10回振ったときに1が0回出る(x=0)確率は,P(0)=0.162である.
さいころを10回振ったときに1が3回出る(x=3)確率は, P(3)=0.155である.

参考

1.二項分布の一般式

ポアソン分布の練習問題

95%以上の確率にするには59個買わないといけません.しかし,59個も買うと2個以上当たることも相当な確率になりそうです.計算してみると以下のようになります.

2. 二項分布の利用

 二項分布すると考えられる場合,それを利用していくつかの予測や推論を立てることができます.

(1)確率の計算
例:シロクマチョコレートを買うと,20個に1個の割合でシロクマのぬいぐるみが当たる.どうしてもシロクマのぬいぐるみがほしいAさんはシロクマのぬいぐるみが手に入る確率を95%以上にするにはいくつシロクマチョコレートを買えばよいか?99%以上にするにはいくつ買えばよいか?

95%以上の確率にするにはいくつ買えばよいでしょうか?さて 求める確率=1-(ひとつもシロクマのぬいぐるみが当たらない確率)となります.ひとつもシロクマのぬいぐるみが当たらない確率とは二項分布で事象が0回起こる確率のことです.ぬいぐるみをn個買ったときに一つも当たらない確率をエクセルで計算してみましょう.
二項分布を正規分布で近似する.
ポアソン分布を正規分布で近似する.
二項分布では,母平均μ=np,母分散σ=np(1-p)となります.

ポアソン分布,正規分布は二項分布から導き出せるので,二項分布がどんなものかを詳しく知るとよりよくポアソン分布,正規分布を理解できるでしょう.

 大きさnの標本で,事象Eの起こる確率をpとするとき,そのうちx個にEが起こる確率P(x)は二項分布に従います.
 例としては,さいころを10回振ったときに1がx回出る確率分布は二項分布に従います.この場合,大きさn=10,確率p=1/6となります.
 ポアソン分布は一定の長さの時間,一定の大きさの空間においてごくまれに起こる事象を表現するときに用います.二項分布において平均μ=npを一定にし,pをどんどん小さくする一方で, nを無限大にすると得られます.非常に大きな集団においてきわめて起こりにくい事象を対象としたときの分布です.
 二項分布と違って,分布の大きさnは必要ありません.例えば,交通事故死はきわめてまれなものです.その対象となるnはしかも何人か決めようがありません.運転者や歩行者の数は毎日異なるからです.そういうときにポアソン分布は有効です.
例:ある島では毎年,何千羽ものヒナが生まれます.毎年平均0.5羽の出現率で黄金色の羽をもつヒナが生まれるといいます. ですから,黄金の羽を持つヒナが0,1,2羽,出現する確率はそれぞれポアソン分布に従うということができます.(ここでは毎年それぞれ誕生するヒナの数が何千羽であるかを正確にわかっていなくてもよいし,異なっていたとしてもよいです.そこが二項分布と違うところです.)