島根大学大学院自然科学研究科 物質化学コース
機能性高分子研究室

|新概念に基づくπ共役高分子の開発
 通常、脂肪族環を主鎖に含む高分子では、共役系が主鎖に沿って拡張することはありません。当研究室では、主鎖に脂肪族環が存在しても、共役系が主鎖に沿って拡張したイオン性共役高分子の合成法を開発しました。この重合法では、モノマー(対アニオン)を適切に選択すると、無触媒・水中・室温という極めて環境への負荷が低い条件下での重合が可能となります。本法を種々のモノマーの重合に利用して、動的らせん挙動を示す高分子、常磁性高分子、両親媒性高分子、複屈折性高分子などを合成しています。これら一連の高分子は、ピペラジニウム環を共役トリエンでリンクした骨格から形成されており、舟形ピペラジニウム環の窒素原子上の電子の空間的な相互作用により、主鎖に沿って共役系が拡張していることを明らかにしました。本法を用いて、機能性アニオンをもつイオン性共役高分子の開発を進めています。


空間的電子相互作用により共役系が拡張した高分子とそのペレットの多色性

論文発表:
Polymer, 219, 12352 (2021)
Eur. Polym. J., 119, 359-366 (2019)
RSC Advances, 8, 29988-29994 (2018)
React. Funct. Polym., 72, 904–911 (2012)
Macromolecules, 44, 1273-1279 (2011)
Polym. Int., 60, 78-84 (2011)
Euro. Polym. J. 46, 1119-1130 (2010)
Macromolecules, 41, 6292-6298 (2008) など

|がん診断を指向したソフトマテリアルの開発
 がんステージに関する情報を、短時間かつ簡便に得られるバイオケミカルセンサーの開発を進めています。このセンサーは、DNAと効率よく相互作用する部位を導入した発光性π共役高分子がDNAと相互作用すると、発光強度が減少することを利用するものです。

論文発表:
J. Appl. Polym. Sci., DOI: 10.1002/app.50810
Chem, Commun., 56, 10914-10917 (2020)
React. Funct. Polym., 120, 14-19 (2017)

|金属錯体触媒を用いた新しい高分子合成反応の開発
 金属錯体は、温和な条件下で、特異な反応を高選択に触媒することができます。当研究室では、金属錯体の優れた触媒作用を利用して、新しい高分子の合成と物性ならびに機能評価を行っています。特に、ルテニウム錯体、パラジウム錯体、ニッケル錯体を触媒に用いた重合反応により、他の重合法では合成が難しい構造をもつ各種高分子(導電性高分子、発光性高分子、耐熱性高分子、反応性高分子、らせん高分子、両親媒性高分子、固体状態で規則的な積層構造を形成する高分子など)を合成し諸物性を明らかにしています。


ルテニウム錯体触媒を用いたオリゴベンズイミダゾールの合成と反応性

論文発表:

Macromolecules, 51, 91-100 (2018)
Polym. Bull., 75, 1635-1650 (2018)
J. Appl. Polym. Sci., DOI: 10.1002/app.41840 (2014)
J. Appl. Polym. Sci., 129, 397-403 (2013)
React. Funct. Polym., 71, 1166-1171 (2011)
Polym. Int., 58, 17-21 (2009) など

|π共役高分子の新しいドーピング法とドーピング状態安定化法の開発
 π共役高分子は、ドーピングすると電気的・光学的・磁気的性質が激変することが多く、様々な分野で応用が行われています。本研究室では、電子受容性に優れるビオロゲンユニットをドーパントとしてp型π共役高分子中に組み込むことに基づく、外部環境の影響を受けにくい新しいp-ドーピング法を開発しました。この方法を利用して、自己p-ドープ型のポリパラフェニレン類、ポリアニリン、ポリピロール、ポリアセチレン類を合成することができました。


ビオロゲンをドーパントとする自己ドープ型ポリパラフェニレン類


 π共役高分子のn-ドーピング(還元)状態は、空気酸化を受けて脱n-ドーピング(中性)状態に戻ってしまうため、一般に空気中で不安定となります。当研究室では、n型π共役高分子の空気中におけるn-ドーピング状態の安定性を、超分子形成を利用することで、大幅に向上させる方法を開発しました。 


空気中でのドーピング状態の安定性が大幅に向上したn型π共役高分子

論文発表:
Polym. Bull., 73, 1827-1839 (2016)
Polymer, 73, 79-85 (2015)
Polym. Int., 62, 766-773 (2013)
Macromolecules, 43, 9348-9354 (2010)
Macromolecules, 42, 4416-4425 (2009) など

|ソルバトクロミックπ共役化合物の開発
 OH基をもつオリゴフェニレン類を、有機溶媒中でアルカリ処理してOH基をONa基としたときの吸収と蛍光発光の波長が、溶媒のドナー数(DN)が増大するにつれてレッドシフトすることを見いだしました。例えば、オリゴフェニレン(6)のOH基をONa基とすると、ジクロロメタン (DN = 0)中では紫色、1,4-ジオキサン (DN = 14.8)中では青色、THF (DN = 20.0)中では緑色、DMSO (DN = 29.8)中では橙色に発光します。水酸基をもつ様々なオリゴフェニレン類やポリフェニレン類およびナノカーボンを合成して、新しいソルバトクロミック材料の開発に関する研究を進めています。


分子内電荷移動型オリゴフェニレンのソルバトクロミズム

論文発表:
J. Phys. Org. Chem., 30, e3671 (2017)
J. Phys. Org. Chem., 27, 622-627 (2014)
Bull. Chem. Soc. Jpn. 86, 1174-1182 (2013)
Tetrahedron, 66, 6725-6732 (2010)
Macromolecules, 42, 7836-7845 (2009)
Tetrahedron, 65, 3645-3652 (2009) など