研究紹介

久保満佐子(森林生態環境分野)

1. はじめに

 森に入り,歩き回って仕事をし,時には森で夜を過ごす。そんなことを長く続けていると,森は多彩な姿を見せてくれます。そして森は,私たち人間の生活に直接・間接的になくてはならない多くの恵みを与えてくれます。森がどのように成り立っているのか,どのような機能を持っているのか,そして人間は森やそれに関連する自然とどのように関わってきたのか,関わってゆくのかを,森林学という分野を通して考えていただければと思います。

2. 森林生態学の概要

 生態学は生物とそれを取り巻く外界との関係に関する科学であり,その中でも森林生態学は森林という領域を扱う生態学です。森林は植物や動物,菌類などの生物的な要素と,土壌や大気,水などの非生物的な要素から成り立ち,いずれの要素も不可欠でありそれらは相互に作用を及ぼしながら循環し,森林の生態系をつくっています。森林生態学では,生物的な要素と非生物的な要素の各要素,または各要素間の関係について研究し,森林生態系の機構を明らかにしていきます。

3. 研究紹介

 森林に存在する要素の中でも,森林の骨格を形成する樹木は,種子から実生,稚樹,そして大木へと様々な段階を経て生長していきます。そして個々の樹木の変化が,長い年月をかけて森林の変化として現れます。森林生態学の中でも特に,こうした樹木を中心とした森林の構造や動態などを主な研究分野としています。

○ 渓畔林の動態

 渓畔林は固有の撹乱体制を持ち,水域−陸域のエコトーンとして重要な生態系です。渓畔林を構成する樹木は,渓畔域特有の撹乱に対して種特有の更新特性を持っています。こうした樹木が,どのように種子生産を行い,芽生え,生長し,共存しているのかを研究しています。


図1. 埼玉県奥秩父の渓畔林。渓畔域特有の撹乱に適応して樹木は更新し,共存している。


図2. カツラの実生。芽生えてすぐは微小。


図3. カツラの大木。数百年かけて林冠木へと生長する。

○ 半自然草原の管理

 日本の草原は森林への遷移の途上にあり,森林と密接な関係をもっています。こうした草原の多くは採草地や茅場,放牧地など,人間が利用してきた歴史を持ち,半自然草原とよばれ特有の生態系を持っています。しかし近年では草原の多くの生物が減少しているため,人為的な管理と草原植生との関係について研究し,草原の保全活動に取り組んでいます。


図4. 島根県三瓶の西の原。火入れを行うことで維持されてきた草原。


図5. 山梨県甘利山。初夏から秋にかけて草原特有の花が咲く。


図6. 日本の代表的な草原であるススキ野原。

○ ナラ枯れによる森林の変化

 島根県にはコナラを主体とする二次林が多くありますが,現在はカシノナガキクイムシにより枯死木が多くなっています。そこで,カシノナガキクイムシによるコナラの枯死はどのような状況で発生するのか,またコナラを主体とする二次林がその後どのように変化していくのかを研究しています。


図7. 島根大学三瓶演習林。コナラを主体とする二次林。

戻る