夏季ドイツ研修レポート

松浦美早(森林学教育コース4年)

 2015年9月中旬頃、「German-Japanese Forestry Field Trip」というドイツのロッテンブルク大学と岩手大学、鹿児島大学の協力のもと行われる約1週間の林業研修プログラムに参加した。このプログラムに参加する大学は年々増えており、島根大学としては2年目の参加となる。この研修は毎年テーマが設定されており、今年は「Forest Economics and Wood Market in Germany」というテーマで行われた。

 研修は各大学がフランクフルト中央駅に集合するところから始まった。初日はドイツの文化に触れることが主目的とされ、ホーレンツォレルン城の見学から始まった(写真-1)。この城はシュヴァーベン山の頂上にたたずんでおり、城下に広がる田園風景を遮るものなく一望しドイツの土地の広大さ、農林業地の豊かさをまざまざと感じた(写真-2)。また場内の見学と共にホーレンツォレルン家に伝わってきた宝物を見ることができ、壁面に描かれた家系図、宝石が散りばめられた王冠や剣、植物がモチーフにされた木組みの床やステンドグラスなどを見ることで、深いヨーロッパの文化の一端を知ることができた。


写真-1 ホーレンツォレルン城の外観


写真-2 城から望むドイツの田園風景

 また別日にはユネスコ世界遺産に登録されたマウルブロン修道院を見学し(写真-3)、テュービンゲンの市街観光やお祭りにも参加させていただいた(写真-4,5)。森林のみならずドイツの歴史や文化、そこから溢れる美しさに触れることができるのもこの研修の醍醐味であると言える。


写真-3 マウルブロン修道院内にある噴水


写真-4 テュービンゲンを流れるライン川−テュービンゲンは大学都市でもあり遊覧船は学生が代々運営している


写真-5 テュービンゲンでの祭の様子

 2日目からいよいよ本格的に研修が始まった。今回勉学の場となるロッテンブルク大学は第二次世界大戦中に軍用施設としてつくられた建物が利用されており、建物から歴史を垣間見ることができた(写真-6,7)。また大学近くには広大な演習林を有しており、森林管理の授業はもちろんだが、ハンティングの授業も行っている。その内容も動物に応じた罠の仕掛け方、イエーガーハウスに籠っての銃での狩猟、とらえた獲物の処理・加工・調理など深く学び、狩猟免許を取得して卒業することができる。この狩猟の授業が行われているため、周辺の森への獣害を抑えることもできているそうだ。ドイツの森林学校は林業に従事する優秀な人間を育成するために設けられており、日本の森林教育との根本的な質の違いを感じた。また学内にはチップボイラーやペレットボイラーが設置されており、大学の研究として燃料の製造にも取り組んでいた。個人的に興味深いと思ったのが、カオリンと呼ばれる糖をペレットに使ってPM2.5が飛ばないようにし、尚且つ品質が安定するような研究だ。また学内には燃焼させた際どのような害がボイラー等にもたらせられるのか検証ができる装置もあり、研究内容と機材から教育レベルの高さをがつんと感じた(写真-8,9)。


写真-6 ロッテンブルク大学の壁面に残るナチスの鷲マークの跡


写真-7 ロッテンブルク大学の外観


写真-8 大学所有の製造機で研究開発されているペレット−バークの含有量による灰の排出量の違いにも着眼がされている


写真-9 燃料を燃やした際のガラスの固着の仕方を調べる装置

 3日目はマウルブロンの森林に入った。ドイツの森林は一部を除いて基本的に国民に使用する権利が認められている。休日になるとほとんどの人がレクリエーションをしに森に入るのだそうだ。故に林業目的の土地、レクリエーションの土地など看板や標識を用いて区分けがなされている(写真-10)。


写真-10 林内の樹木に張られた標識―林道の分かれ道などで良く見られる

 またこの日は森林の更新の仕方についても学んだ。日本の造育林の現場では植林や保育のコストが高く6〜7割を占めている。しかしドイツでは光を入れることで造林の目的樹種の更新をすることができるので、プランティングではなくハーベスティングの方にコストが集中するのだそうだ。このことからドイツではいかに伐採コストを下げることができるかに注力がなされている。日本とドイツでは育林環境が違い、どこを参考に見ていかねばならないのかきちんと学ぶ必要性を知ることができた。

 4日目はペレット工場の見学をした(写真-11)。ここでは林地残材や建築残材、土木系廃材を集め(写真-12,13)分別を行った後、ペレットを製造している。このペレットは隣接する発電所で利用しており、電気だけでなく、エネルギー効率の良い熱利用もなされている。ドイツでは既にヒーティングシステムが確立しているため、近隣住民も電気よりも低い料金でエネルギーを用いている。ドイツの林業市場においても林地残材を始めとするローマテリアルの活用によって原木の利用価値が高められており、やはり日本でも木質バイオマスの熱利用は今後林業をしていくにあたって、取り組まねばならぬ部門であると痛感した。


写真-11 見学したペレット工場の外観


写真-12 集積された林地残材

 
写真-13 集積された建築残材

 5日目にはかの有名なシュヴァルツヴァルトの黒い森を訪れた。黒い森と言われていて真っ暗な林内を想像していたが、手入れがきちんと行き届いており林冠が閉鎖して暗いと感じたところはごく僅かであった。ここでは実際に林業者が所有し、利用している林業機械を見ることができた。ドイツの林業現場では大型林業機械の性能を存分に発揮するため、林道整備が進められている。シュヴァルツヴァルトの森の林道も立派な道が付けられていた(写真-14)。道は平坦な形ではなくやや真ん中が盛り上がったかまぼこのような形をしており、水はけをよくするような工夫が見受けられた。この森の林道密度はおよそ150m/haあるそうだ。日本で最も林道整備が進んでいる現場でもその密度はおよそ40m/haであるため、整備の差は歴然であった。またキャタピラータイプの林業機械で走行すると林道を壊してしまう恐れがあるため、“何m走ったら何ユーロ支払う”という林道維持のための決まり事も定められている。


写真-14 シュヴァルツヴァルトの森の林道

 林内には40m間隔でロギングラインが敷かれていた。見学した現場は当初雨が降っており、また急斜面での作業であったが、ワイヤーロープで機体を繋ぐなどしてハーベスタやフォワーダが稼働していた(写真-15)。大型のハーベスタが30度以上の傾斜をのぼっている様は度肝を抜かれた。近年の林業機械は傾斜対応がなされており、車体が斜めになってもキャビンを垂直に保ってくれるのだそうだ。ドイツでの林業機械の活躍の場はまだまだ広がりそうである。


写真-15 ワイヤーを使って急斜面を上るフォワーダ

  6日目はシュヴァルツヴァルトの中腹部にある製材所を訪れた。この会社は全く節のない高級材の丸太を製材の対象に扱っている(写真-16)。一つの丸太から同じ製品を機械のみを用いて単一的につくるのではなく、人間の目で直に選定を行い、徹底的に質の選別をして高い歩留まりで材を出している(写真-17)。原料の丸太は質の上から順に材、かまぼこ板、集成材にされて、最終的にバークや小枝などは、低温のヒーティングシステムや材の乾燥に余すことなく用いられている。また他の企業が目に付けないような海外のニーズにも対応しており、高級ピアノの鍵盤材や卒塔婆(つくっておられるご本人方も何の用途に使われているかはご存じでなかったそうです;)なども作っていらっしゃった(写真-18)。人の目による選別方法は決して労働生産性は高くない。しかし高品質の材を生み出すには必要不可欠であり、結果地域雇用の貢献も果たしている。機械化による製材コストの削減が進められているドイツにおいて珍しい企業であった。このような会社が製材現場の主流であればドイツ林業は成り立たないが、このような会社が数社あることでまたドイツ林業は成り立っているのだと、ロッテンブルク大学の教授が述べられていたのが印象的であった。


写真-16 製材前の丸太


写真-17 人間の目による歩留まりの判定−その場で機械を操作してカットを行っている

 
写真-18 日本向けに作られている卒塔婆、かまぼこ板、お守り用の木板

 7日目はシュトゥットガルトの名士の方が所有、運営しているブドウ・ワイン農家を訪れた。こちらでは生産効率が重視される社会の中で敢えて無農薬でブドウの栽培を行い、ワインの製造を行っている。また近年の新しい生活に移る中で失われてしまった昔ながらの暮らしや、助け合いの農業の復活にも取り組まれていた。研修の中では無農薬のブドウや昔からあった釜で焼かれたパンを振る舞っていただき、広い斜面に広がる長閑な石組みのブドウ畑を歩いた(写真-19,20,21)。異国の地にいながらも、日本の中山間地域での取り組みや想いに近しいものを感じ、人は暮らす環境や文化、歴史は違えど繋がっているところがあるのだと、思わず胸が熱くなった。


写真-19 昔から地域で使われてきた釜を用いて焼かれたパンたち


写真-20 昔の建物を利用したワインセラー


写真-21 難しい在来の白ブドウの栽培にも取り組んでいる

 研修最終日の8日目は「木の家」という意味の名前の子供向け森林・林業教育の施設を見学した。子供向けといえ、“森林においてどの樹を伐った方が良いのだろう”とか“何故森林が無くなると人の暮らしは困るのだろう”などの内容が分かりやすいように、木製のおもちゃに昇華されており、ドイツ林業の教育レベルの高さに驚かされた。またこちらでは林業従事者が受講することによって、階級を上げられるような長期研修などの教育も行われていた。国が、国民が、林業を重要視していればこその教育機関であった(写真-22,23,24)。
 

写真-22 どの樹木が伐採に適した樹なのか当てるゲーム−棒を回して樹を回転させると、何故この樹は伐採してよいのかor伐採してはいけないのかの説明文が出てくる


写真-23 木の家の内観


写真-24 林業教育プログラム用の教科書

 また学びの場以外でも得るものがあった。研修期間中お世話になった修道院では日本人シスターのコバヤシさんという方がいらっしゃった。コバヤシさんは私たち大学生と変わらない年頃に宗教と教育を学びにドイツに向かわれたのだそうだ。宿泊中、コバヤシさんには身の回りのお気遣いだけでなく、修道院の施設や素敵な農場を案内していただき、ご厚意で毎朝夕に開かれているミサにも参加させてくださった。本当に多方面でお世話になり、感謝し尽せない。シスターの方々も明るく時にはお茶目に話しかけてくださり、とても嬉しく感じた(写真-25,26,27)。


写真-25 ミサの様子−毎朝シスターがパイプオルガンを演奏してくださる


写真-26 修道院の農場見学−無農薬で立派なリンゴやアプリコット、プルーンが育てられており驚きました。修道院の方がご用意してくださる食事には必ず新鮮な果物が添えられていました


写真-27 コバヤシさんとシスターの方々と撮らせていただいた一枚

 またロッテンブルク大学の研修中では大学の学生、先生方とそのご家族と度々ご飯を頂く機会があった。中でも印象的だったことは学生が仕留めたイノシシの丸焼きを囲んでみんなでご飯を食べた事である。イノシシ…も勿論インパクトは大きかったが、何より大学の関係者とその家族が集まり、大学の敷地内でまるでホームパーティのようにご飯を食べたことが印象深かった。日本の大学では先ず見ることのできない風景だった(写真-28,29,30)。


写真-28 とても衝撃的なイノシシの丸焼き


写真-29 大学での歓迎パーティの様子


写真-30 最後の方ではドイツの先生のご家族の方とも仲良くさせていただきました

 今回の研修では、知識はもちろんだが改めて林業国の人のポテンシャルの高さを知ることができた。またこの研修では他大学の森林学を学ぶ学生や先生方と交流することができ、今まで自らが学んできたことを深めることができたように思う。自ら学ぶ目的を持って海外に出たことで更に学ぶ意欲を得ることができた。研修で得たものを日本で活かすことができるように、更に学んでいきたいと思う。ぜひ日本で森林学を学ぶ学生に、この研修に参加し大学在学中に良い刺激を得てほしい。

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