第12回 ジャスモン酸メチル処理による水稲の開花時刻の促進と不受精の発生

ジャスモン酸メチル処理による水稲の開花時刻の促進と不受精発生ポスター(PDF)

標記のタイトルで2009年3月27,28日につくば国際会議場エポカルつくばで開催された第227回日本作物学会講演会で発表しました.そのときのポスターの縮小版は下のリンクにあります.

目的

 早朝開花性は水稲の開花期における高温不稔を回避する方法の一つと考えられています.

 高温不稔と早朝開花性については以下のリンクをみてください.
    制御環境下での気温と水稲の開花時刻の関係

 人為的な開花促進方法(強風,接触刺激,暗黒処理)では葯の不裂開あるいは受粉数の減少をともなうことが報告されています.一方,ジャスモン酸メチルは開花を引き起こす一方,葯の裂開や花粉の成熟に関与すると考えられています.そこで,開花時刻をジャスモン酸メチルによって促進させた場合,どの程度の開花時刻の促進効果があるのか,さらに開花時刻を早めた場合に葯の不裂開や受粉不良をともなうことはないのかを調査しました.
 ジャスモン酸メチル処理によって不稔を増やすことなく,開花を早くできれば,高温が来るとわかればジャスモン酸メチル処理すれば高温不稔を回避できるかもしれません.


材料と方法

供試品種は水稲ヒノヒカリを使いました.
栽培方法は分げつは適宜切除し,主稈のみ育てました.
処理方法は出穂1,2日後のもっとも開花が多くなる日にジャスモン酸メチル処理を行いました.少量のエタノールを含む4mM ジャスモン酸メチル溶液と,等量のエタノールを含む蒸留水を,午前9時,10時,11時に穂全体(1穂当たり3mL)に散布しました.散布を行わない無処理区も設けました.

調査項目:
開花盛期をその日に咲いた穎花のうち半数の咲いた時刻としました.
開花数および不受精率については,その日の開花終了後,処理当日および処理翌日にそれぞれ咲いた穎花に印をつけて区別しました.処理当日および翌日の開花数および不受精率を調査しました.
受粉数と花粉発芽数は塩基性アニリンブルー法でで柱頭を染色し,蛍光顕微鏡で観察しました.
葯の裂開率はキーエンスデジタルマイクロスコープで実測しました.
結果
1.ジャスモン酸メチル処理は開花時刻を早め,とくに午前9時に処理すると10時16分に開花盛期を迎え,無処理区よりも2時間程度早くなりました.
戻る
2.ジャスモン酸メチル処理は処理当日の開花数(黒棒)を増やし,処理翌日の開花数(白棒)を減少させたので,翌日に開花すべき穎花も開花させたものと推察されました.
3.ジャスモン酸メチル処理は当日開花した穎花の不受精率(黒棒)だけでなく,処理当日以外の日に開花した穎花の不受精率(白棒)も高くしました.
4.ジャスモン酸メチル処理は受粉数(白棒と黒棒の合計)を減少させましたが,花粉発芽(黒棒)には大きな影響はみられませんでした.
5.ジャスモン酸メチル処理によって,葯の先端部(黒棒),基部(白棒)の裂開率が低下しました.
結論
1)午前9時あるいは10時のジャスモン酸メチル処理によって水稲の開花を無処理よりも1〜2時間以上早くすることができました.

2)しかし,ジャスモン酸メチル処理によって翌日開花すべき穎花が多く開花したため,不受精率が増加しました.

3)ジャスモン酸メチル処理によって受粉不良,葯の不裂開も発生しました.