研究
当研究室における研究活動について紹介します。
テーマ
当研究室では,核磁気共鳴法(NMR)を用いて磁性体や超伝導体の性質を調べています。主として高圧力下で誘起される新しい超伝導状態に関する研究に精力的に取り組んでいます。超伝導を担う電子の波動関数の対称性やパリティを調べたり,超伝導の発現機構を解明したりすることが研究の目的です。また,超伝導に加え,低温で実現する多極子秩序に関する研究にも取り組んでいます。
これまでの研究テーマは以下の通りです。
- 重い電子系超伝導体CeCu2Si2の価数揺らぎ超伝導機構の研究
- 圧力誘起超伝導体CeCoGe3の高圧下における研究
- 高圧下におけるパイロクロア酸化物超伝導体Cd2Re2O7の構造不安定性と超伝導の相関についての研究
- フラストレート型酸化物の圧力誘起物性の研究
- CeAl2のCe価数状態の圧力変化に関する研究
- 局所的反転対称性の欠如したCe系反強磁性体の奇パリティー多極子に関する研究
- α-Mnの磁性と量子臨界現象
- 高圧下物性測定(NMR,電気抵抗,ホール効果)技術の開発
共同研究
当研究室は国内外の様々な研究グループと協力しながら研究を進めています。 これまで主に岡山大学,大阪大学,Max Planck Institute (Dresden)のグループと共同研究してきました。 また,三好グループ,本山グループとも常に連携して研究しています。
高圧下NMR
インデンター型圧力セル
当研究室では高圧下NMR測定に主としてインデンター型圧力セルを利用しています。これは岡山大学・小林研究室で開発されたNi-Cr-Al合金を利用した小型のクランプセルです。最大約5 GPa(5万気圧)の圧力を印加することができ,高圧,極低温,高磁場という多重極限環境下でのNMR実験を実施しています。


アンビル型セル
インデンター型圧力セルを超える圧力を実現させるため,アンビル型セルも利用しています。
トピックス
重い電子系超伝導体CeCu2Si2の高圧NQR
CeCu2Si2は1979年に報告された最初の重い電子系超伝導体・非従来型超伝導体で,2020年代でも超伝導対称性や超伝導発現機構をめぐって活発に研究されています。 この物質に加圧すると,超伝導は約4 GPaで突如として増強されたのちに消失することが知られています。 この圧力効果は超伝導発現機構の解明の手掛かりとなることが期待されてきましたが, その詳細についてはこれまで未解明でした。
本研究ではこの物質の超伝導の起源を探索するため,インデンター型圧力セルを用いて, 約5 GPaまでの高圧下で63Cu核の核四重極共鳴(NQR)を行いました。 その結果,超伝導が増強される付近での核磁気緩和率は磁気臨界発散を示さず, 通常の金属的(フェルミ液体的)な温度依存性を示しました。 この結果は,CeCu2Si2の超伝導は近接する反強磁性相の 量子臨界点(QCP)に起因するという単純な解釈が成り立たないことを示しています。
さらにCu NQRの共鳴周波数νQの圧力依存性に着目すると,超伝導が増強される付近で異常な圧力変化を示すことも解明されました。νQは原子核の周囲の電気的状態に敏感なので,この結果から,超伝導増強とCe原子の価数状態に関係があることが示唆されます。

この研究は大阪大学,Max Planck Institute (ドレスデン,ドイツ)との共同研究です。 本論文は2008年12月の物理学会の注目論文に採択されました。