Current Research Interests

・液中レーザーアブレーション法の構築

液体中に設置した物体(板や粉末)にナノ秒以下の短パルスレーザーを照射すると,蒸発,イオン化等によって物体から噴出した物質が液体で冷却され,コロイド状のナノ粒子を形成します。

本研究室では,この現象をナノ粒子の新規作製方法として活用するために必要な,生成効率の向上,粒径制御を行うための手法の開発,メカニズムの解明に取り組んでいます。

(関連文献)

T. Tsuji, in G. Yang (Ed.), Laser ablation in liquids Principles and applications in the preparation of nanomaerials. Pan Stanford Publishing, Singapore, 2012, p. 207.

・液中レーザーアブレーションによる酢酸カルシウムナノファイバーゲルの作製

島根大学の近くにある宍道湖はヤマトシジミの一大産地ですが,食用後,加工後に残る貝殻は廃棄物となります。これを機能材料として利用できれば,資源の有効活用になります。

最近本研究室ではエタノール中に分散したシジミ貝殻焼成物(主成分は酸化カルシウム)や酸化カルシウム粉末に対して液中レーザーアブレーションを行うと,ゲルが生成することを偶然発見しました。

このゲルは乾燥後は元のCaO粉末よりも表面積が増加することから,吸着剤としての応用が期待できます。

また,「レーザー照射下という材料が微細化される環境においてなぜゲルが生成するのか」ということもこの現象の興味深い点です。その後の研究で,メカニズム解明に繋がる現象として,原料粉末コロイドと,レーザー照射を90分間行って粒子を完全に微細化粒子コロイドを混合してもゲルが生成することを見いだしました。さらに、このようにして作製したゲルにはネットワーク構造が形成されていることが蛍光顕微鏡観察の結果明らかになりました。

このことから、当初ゲルは原料粒子と微細化された粒子が連結して形成されると考えましたが、なぜ粒子が凝集によって上手く一次元的に連結できるのか、については全く説明できませんでした。そこで試しに微細化粒子コロイドから固形成分(粒子)を除去したものと原料粉末コロイドを混合したところ、ゲルが出来(てしまい)ました。このことはゲル生成の要因は、微細化粒子ではなく、液中に含まれている成分であることを示しています。

そこで、液中の成分を分析したところ、酢酸が含まれていました。酢酸はレーザー照射によってエタノールが酸化されることによって生成したと考えられます。また、酢酸を原料粉末コロイドに添加してもゲルが生成し、ゲルの成分は酢酸カルシウム(酸化カルシウムと酢酸が反応して生成)のナノフィバーであることが分かりました。

つまり、ゲル生成はレーザー照射によるエタノールの酸化で生成する酢酸によるものであり、レーザーによる材料の微細化は関与していないことが明らかになりました。言い方を変えれば,ゲル作製にはレーザー照射は不要であることになります。

現在は,ファイバーゲルの構造制御や金属ナノ粒子の担持等に取り組んでいます。

(関連文献)

T. Tsuji, M. Kaneko, M. Fujiwara, D. Atarashi, H. Miyazaki, J. Laser Micro/Nano Eng., 14 (2019) 147.

H. Takamori, T. Itamochi, T. Tsuji, D. Atarashi, Y. Ishikawa, Y. Okumura, H. Kikuchi, Colloids Surf., A, 679 (2023) 132573.

T. Tsuji, H. Takamori, K. Fujita, D. Atarashi, H. Iida, H. Shiratori, Y. Okumura, H. Kikuchi, Colloids Surf., A, 703 (2024) 135361.

H. Takamori, E. Ohishi, K. Fujita, A.i.A.q.B. Abdul Jalil, T. Tsuji, D. Atarashi, H. Iida, H. Shiratori, Y. Okumura, H. Kikuchi, Colloids Surf., A, 725 (2025) 137571.

 

 

・液中レーザー溶融法を用いた球状サブミクロン粒子の作製

サブミクロンサイズの球状粒子(以下SMP)は,ナノ粒子と同様に低温焼結を起こすことが可能でありながら,ナノ粒子のような不可逆的な凝集を起こしにくい,という導電性インクとしての利用等に適した性質を有しています。

液中レーザー溶融法は,蒸発が起きない程度のレーザーをコロイド状ナノ粒子に照射して,溶融させ,SMPを作製する新たな方法です。

SMPの生成には複数のナノ粒子の凝集が必要ですが,コロイドの自発的な凝集は沈殿とレーザー未照射粒子の残留に繋がります。

本研究室では,レーザー誘起凝集という独自の手法を構築し,原料ナノ粒子コロイドの自発的凝集を抑制しながら,SMPを効率よく作製する方法を編み出し,他の方法では作製が困難な白金SMPの作製等に取り組んでいます。

(関連文献)

T. Tsuji, T. Yahata, M. Yasutomo, K. Igawa, M. Tsuji, Y. Ishikawa, N. Koshizaki, Physical chemistry chemical physics, 15 (2013) 3099.

T. Tsuji, S. Sakaki, H. Fujiwara, H. Kikuchi, M. Tsuji, Y. Ishikawa, N. Koshizaki, J. Phys. Chem. C, 122 (2018) 21659.

T. Tsuji, Y. Suzuki, S. Sakaki, Y. Ishikawa, N. Koshizaki, Electr. Commun. Jpn., 104 (2021).

・パルスレーザーの特性を生かした金属の効率的穴開け加工法の開発

レーザー加工は,堅い,もろい,高融点等の理由で従来の機械加工が困難な材料の加工法として優れていますが,欠点は加工速度が低い(高コスト)であることです。

この欠点を補うため,フェムト秒レーザーや大出力ファイバーレーザーの導入が進められていますが,本研究室では,汎用のナノ秒バルスレーザーのQスイッチを外して得られるロングパルスを用いると,ナノ秒パルスよりも極めて低いエネルギーで高い速度の穴開け加工が可能であることを見いだしました。

これは,短いパルスほど,熱拡散の影響を抑制して加工効率が高くなる,という従来の常識を覆すものです。現在は,加工効率が高くなる理由のより詳細な解析を進めています。

(関連文献)

T. Tsuji, S. Yamamoto, S. Ikemoto, H. Hara, M. Ohta, D. Nakamura, Int. J. Adv. Manuf. Technol., 120 (2022) 4139.

 


Return to HP