第6回 イネ花粉の液体培地による人工発芽の試み(サイトの主にしては珍しい今風な研究?)

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 わたしは現在,イネの開花期における高温障害を研究しています.その中で最も重要な不受精の要因は葯の不裂開によって,柱頭上に受粉する花粉が少なくなることです.しかし,花粉の発芽能力および花粉管の伸長能力の低下も不受精に関与しているかもしれません.そこで,花粉の人工発芽で高温条件下での花粉の発芽能力,花粉管伸長能力を検定しようと考えました.

 花粉のin vitro培養については,Kariya(1989)の寒天培地が実用化されているのですが,それには次の問題点がありました.
 Kariya, K. (1989) Jpn. J. Crop Sci. 58: 96-102.

1.25℃以上の培養温度では発芽率が著しく低下する.
2.寒天培地を作るに時間がかかる上に,作り置きがきかない.

 そこで,トウモロコシで使われる花粉の液体培地(Aylor, 1994)を使って,イネでも使えるかを試してみました.
 Aylor, D. E. (2004) Agric. For. Meteorol. 123: 125-133.

 下の写真のように,液体培地にまくとイネの花粉も発芽しました.しかし,発芽した花粉はほとんどすべて破裂しています(キーエンス デジタルマイクロスコープによる観察なので,画像が多少不鮮明です).

 そこでホウ酸,カルシウム,カリウムなどの濃度を変えたり,ショ糖濃度をいろいろ変えて,浸透圧を変えてみたりしました.下がショ糖濃度を倍以上にして浸透圧を高めたときの写真です.破裂は減りましたが,発芽は0%になってしまいました.

 さらに品種によって発芽率が異なりました.ハナエチゼンでは液体培地で90%以上,発芽することもありましたが,IR72では30%程度まででした.寒天培地に比べると発芽率は低く,安定でもないので,まだまだ実用には遠いようです.

 いろいろなアドバイスを受けたく,今度の作物学会(香川大学 2006年10月28,29日)で発表しました.いろいろなご意見をありがとうございました.

 なお,以上の実験は2006年3月に卒業した園山君の卒業実験です.実際の仕事はほとんど園山君がやったものです.たいへんな実験でしたが,よくやったと思います.
 当研究室には院生がほとんどいませんので,4回生でも大きなテーマを一つ与えています.卒業研究は必修でもないのですが,おもしろい結果も出てきていますので,今回から数回にかけて,わたしの指導した卒業研究を紹介したいと思います.

ポスター発表の縮刷版(PDF)です
このときの講演要旨(日本作物学会紀事別号のPDF)はこちらです