農業経済学コースの概要

 
 農業経済学コースは、1951年4月の島根農科大学農林経済学課程の設置から数えて70年近くの歴史を有しています。私たちはこれまで、農村地域の生活、生産及び環境をより望ましいものにするための社会科学的な分析視角と解決手法を身につけた有為な人材を多数世に送り出してきました

 

 当コースは現在、食料・農業・農村を主な対象とし、その社会経済問題と解決策について幅広く考察していくための教育と研究を行なっています。具体的には、農村社会調査の方法と実践、経済学をはじめとする社会科学の理論と応用、農業の政策・経営・市場問題、中山間地域の活性化対策、農業と関連産業の振興問題、途上国の農村開発と農民問題、国内外の資源・環境問題、農業・農村・農民の歴史、漁業の歴史と現状などについて学ぶことができます。 また、当コースでは、他コース・他学科の授業科目を幅広く履修することができます。社会科学だけでなく、自然科学の専門的な知識と技術を習得することができる点も、当コースの特長です。 これらの学びを経た卒業生(学部、大学院)は、産・官・学の幅広い分野で活躍しています。 
 

島大農経の対象と視点を示した図

 

求める学生像

 
 大学とは、「研究と教育に創意と自由が尊重される」ところです。これが高校までと大きく異なる点です。これまでの自分をリセットし、学生生活をスタートさせましょう。
 大学には、いろいろな可能性があります。それを追求し、実現していくために主体的に行動しましょう。 大学には、「リベラルアーツ」(教養知)と「専門知」があります。2つの知を体系的に習得し、科学的な思考を養っていきましょう。 大学では、独自性と協調性が求められます。他者との違い、考えの違いを絶えず意識して独自性を追求していきましょう。 大学では、思考する力・表現する力・議論する力、そしてトータルとして「知恵」を身につけていきましょう。 農業経済学コースでは、広い視野・問題意識・主体性・考察と分析能力が必要です。基礎的な事項・理論を理解することはもちろんですが、変化しつづける農業・環境の現場に対しては通り一遍の応用力では間に合いません。常に人間と社会を観察し、疑問をもって取り組み、自分なりのそして普遍的な解答を用意できるような学生を求めます。
 
 

社会科学を学ぶということ

 
 社会科学とは、実証的合理的な研究方法によって社会現象を考究する学問です。社会科学を構成するのは、経済学 (Economics)、経営学 (Management studies)、政治学 (Political science)、法律学 (Law)、歴史学 (History)、社会学 (Sociology)などです。
 これらの研究対象である社会的人間の世界は、すぐれて歴史的であり、諸要因の複雑な関係を含みます。しかしながら社会科学も経験科学の一つとして、社会的事象の観察から客観的法則を引き出そうと務めています。
 そのため例えば、電子顕微鏡を通して肉眼では見えない世界を見るように、社会科学では概念という装置を使って現象の奥にある本質を見極めようとします。私たちはまずこの概念装置を身につけるために、先行する諸業績から学ばなければなりません。そして、いずれはそれらを修正し、あるいはあらたにより優れた自前の概念装置を作り出さなければならないのです。

 
 

農村の現状と問題点

 
 21世紀をむかえて、人間生活に不可欠な衣食住の資源供給地域として大きな役割を果たしてきた農村は、新たな役割が求められるようになっています。これらの資源を量的に安定して供給することと共に、新鮮、安全といった質的な面が求められるようになってきました。
 また、農村地域が育んできた良好な環境、文化的遺産を活かした生活実現の場としての役割も注目されるようになってきました。こうしたことは、近年の政策でも重視されるようになってきましたが、経済のグローバル化、農村の過疎化・高齢化のためその役割の実現が困難になっています。こうした地域問題に当コースは、多様な方法で解決策を見出そうとしていますが、学生諸君もともに考えてほしいと思います。
 
 

ここで何を学ぶか(何の専門家になるか)

 
 農業経済学コースでは、文献や資料調査・現場での実地調査をもとに考え方や理論を組み立て、それに基づいて実証的な研究を行ない、農林水産業や農村あるいは環境について、将来のあるべき方向を見極めます。

 私たちは人類の生存に不可欠な食料生産・環境保全・資源管理に関わる社会科学の専門家になるのです。当コースで農林水産業・農村の歴史と現状、あるいは資源や環境問題とそれをとりまく現在の社会的・経済的な状況を勉強していくと、またフィールドに出て現場の様々な状況を観察し学んでいくと、様々な問題に突き当たります。 しかし、社会科学の方法を身につけていると、すべての事柄がうまくいくような理想的な姿が徐々に見えてくるはずです。まず何から解決すべきかという、根本的なことが分かってくるでしょう。私たちが勉強する社会科学はその本質的な原理を理解し、そこから社会全体のあり方を考えるのです。
 
 

如何に学ぶか

 
1) フィールドから学ぶ


✓社会を観察する  農業経済学コースは農村を取り巻く社会的状況を様々な視点や角度で捉え、それを現実の中で改善していくことを目指しているところに特徴があります。各研究分野によってその手法は異なりますが、何が問題になっているのか? 何が重要なことなのか?を探してみることからまず始まります。 実際にフィールドに出かけて行く機会はどういったところにあるのでしょうか。島根大学が学生を対象に行っているものとして、ボランティア養成講座、新入生合宿研修などがあります。

✓積極的に参加する
 当コースでは授業の中で実際にフィールドに出かけて行く機会があります。また、教官が現地調査する機会に学生に呼びかけることもあるでしょう。他の研究室で行っている研究会(ゼミ)や実習に参加できることもあります。学内外問わず、個人的にループをつくって活動している団体もいくつかあります。 個人的に教官に相談や要望することでも情報が得られますが、インターネットや学内の掲示物に注意を払うなど、普段から積極的にアンテナをはって気を付けていれば、そういった機会を手にすることができます。 フィールドは活きた知識と情報の宝庫です。教室での勉強ももちろん重要ですが、私たちの研究分野はフィールドとの直接的な関わりと相互通行がなければなりたちません。積極的に出かけましょう。


2) 読書から学ぶ



✓ 想像力を身につける  社会科学では、社会に対する自分の考えをより説得力のある形で他の人に伝えることが求められます。その際に読書はあらゆる場面に必要になります。資料を読み取るということ、知らなかった事実を知るということ、論理的な思考を学ぶということ、こうしたことを積み重ねることで独り善がりではない、広い視野に立った考えが培われていきます。 例えば、『日本の農地を守る』ことにどのような意味があるのかを考えてみるとします。『農地を守ることは、その地域の農業者を守ることである。さらに農業に関連した地域の産業を育成することで、新たな雇用を生み出すことができる』、『日本の農地を守ることで、国内の消費者は、国際情勢に左右されることなくより安定・安全な食料を確保する事ができる』、『農地を守ることで、農村の生活環境・景観が保たれ、農村住民だけでなく、遊びにくる都市住民のアメニティも確保できる』など他にも色々な考え方があります。一見、単純そうに思われる問いかけも、深め、掘り下げていくことで多くの課題と可能性が見えてきます。その過程では、いかに想像力を働かせるかが重要で、読書はその手がかりとして欠くことのできないものです。