海外で活躍する音研卒業生

島根大学教育学部音楽教育専攻の卒業生には,国内外で活躍する音楽指導者やプロの音楽家も数多くいます。

現在(いま)を支える島大音研での多様な学び

中山敬子さん 平成4年3月 島根大学教育学部特別教科音楽教員養成課程卒業,平成6年3月 島根大学大学院教育学研究科修了,在ケルン(ドイツ)

コントラバス講習会における伴奏風景.jpgコントラバス講習会でピアノを弾く中山さん 松江市で育った私にとって、島根大学教育学部は子供のころからとても身近な存在でした。小学生の頃、友達とワクワクしながら大学祭を訪れたり、中学時代(附属中でした)は教育実習生をからかったり(からかわれていた?)、高校時代は部活の指導をしてもらったりしました。そして、どこの大学で何を勉強するかを考えるずいぶん前から、島大音研生による定期演奏会や卒業演奏会を聴きに行って、多くの影響を受けてきました。
 島根大学に入学してから、専門のピアノ以外で多種多様の経験をさせてもらえたことは、私にとってとても大きな財産です。副専攻(現在は副科と呼ぶそうですね)の楽器として始めたヴァイオリンは、専攻生(専科生)なみにレッスンをしていただき、先輩たちにも丁寧に指導をしてもらいました。おかげで、オーケストラの韓国演奏旅行にも参加させてもらうことができました。合唱の授業では、バッハのマタイ受難曲やヨハネ受難曲などの大曲を経験でき、ブラスの授業では、全くの初心者である私にパーカッションのノウハウを辛抱強く指導してくださいました。
 現在私は、ドイツの音楽大学で伴奏講師(コレペティートア)を務めながら、学外での講習会の伴奏やピアノを教える生活をしています。ヨーロッパで出会うピアニストで私のような多様な経験をしてきた人はほとんどいません。「Keikoのピアノは一緒に演奏しやすい」と言ってもらえるのは、島根大学で受けた教育のおかげだと自負しています。
 「音楽性は教育することができるのか」、これは仲間うちでよく議論になるテーマの一つです。音楽は演奏者の人間性がはっきりと表れます。私は、演奏しているときのオーラも含めてその瞬間に表れる全てが、その人の音楽性だと思います。これは頭で理解して得るものではなく、精神的/感覚的な鍛錬や経験(音楽に限らず)から培われたものが、内側から沸き出てくるようなものだと思います。
 私が伴奏を務める講習会では、時にドイツ語も英語もあまり話せない学生が受講して来ますが、合わせの時に細かい打ち合わせが思うようにできなくても、本番でバチッと合うことも珍しくありません。言葉では表現できないものがぶつかり合い、それがぴたりと一つになった時は、表面的に整ったようなものではなく、もっと奥の深い芸術ができあがります。そこには、国籍の問題も言葉の問題も生じません。そして、そういう音楽に到達できた時は、異次元での何とも言えない興奮を味わうことができます。日々単調な練習を繰り返すのは、その醍醐味を求めているからなのかもしれません。フルートクラス コンサート終了時に全員で~前列中央が筆者~.jpegフルートクラス コンサート終了時に全員で~前列中央が中山さん~
 今、私は、人間性や音楽性を深めるべく、常に新しいことへの挑戦や冒険を経験できる環境にいられることを本当に幸せに思います。そして、すでに20年以上も前の島根大学での多様な学びの経験が、現在(いま)の私を支えているのだと、あらためて、強く思い起こしているところです。

中山敬子(なかやま けいこ)
島根県松江市出身。1992年島根大学教育学部特音課程ピアノ専攻卒,94年同大学院教育学研究科修了。その後渡独し、デュイスブルク音楽大学首席卒、エッセン音楽大学ソリストコース修了、ドイツ国家演奏家資格取得。ガイアーピアノ国際コンクールでランドフスキー賞、ケラー・オスパー・コンクール第1位、エッセン音大コンクール奨励賞、フルートとのデュオでクーラウ国際コンクール入賞等。ボン・ベートーベンハレ・オーケストラとシューマン、ショパン、グリーグのピアノ協奏曲を共演するなど、ソリストとしても活躍中。現在アーヘン音楽大学講師としてドイツに在住し、各地の講習会等でピアノを担当している。


「完璧に弾けるようにじゃなくて,本番楽しむために練習はするんだよ」

出井紗希子さん 平成12年3月 島根大学教育学部学校教育教員養成課程(音楽教育)卒業

出井紗希子さん.jpg 「あすこをしだりに曲がってにぇ,階段をのぼーとにぇ,紙が張ってあーけんにぇ…」入試の際に守衛さんに会場を尋ねたところ,完璧な島根弁での返答,全く理解できぬまま,守衛さんが差した方向に向かって歩いて行ったのが私の島根大学との出会いだった。自分が入学するとは思ってもみなかったこの大学で私はどれだけのものを得ただろう。私が打楽器の師匠に出会い,この道を進むことを決めたのもここ,島根大学であった。
 当時,打楽器科がなかったため打楽器演奏での卒業は叶わなかったが,それでも打楽器をやりたい!という熱意が薄れなかったのは,「勉強したい事ができない大学は大学ではない」と真剣に方法を模索して下さった先生方のおかげである。
 また,授業に熱心に出ていたとは到底言えないが,総合大学だからこその多種多様な講義,そして多方面で活躍している仲間たちからは今でも刺激を受け,私の土台になっている。
  ドイツに住み始めた当初,ドイツ語がさっぱり話せなかった私は,買い物をする,電車に乗る,ゴミを出す,そんな日常生活の全てのことに時間がかかり,生活能力のリセットボタンでも押された気分だった。初めてパン屋さんで「ハムサンドを一つください」と言って伝わった時には踊るような気分で家に帰り,一人乾杯したものである。それでも楽しくやってくることができたのは,ドイツ人や他の国から来た仲間たちが,偏見を持たず,時にはからかいながらも,辛抱強く私のめちゃくちゃなドイツ語に付き合ってくれ,助けてくれたからである。
  現在,私はドイツに在住,ソロ活動を中心にアンサンブルやオーケストラ等で演奏をする傍ら,音楽学校でのレッスン,またアウトリーチ事業の一環で,近隣の小学校,特別支援学校,児童院等で打楽器を使った定期的なワークショップに取り組んでいる。
出井紗希子さん(中央).jpg中央が出井さんヨーロッパに来て改めて学んだことは,音楽は演奏者が楽しんでこそ,聴衆にその楽しみが伝わるということである。あるとき,超難曲の現代音楽作品の演奏会前,「明後日の本番までに何とか弾けるようにならないと!」と必死に練習していると,ドイツ人が「完璧に弾けるようにじゃなくて,本番楽しむために練習はするんだよ」と言ってくれた。その言葉は,今でも度々思い出す。
  また様々な環境にある子供たちに関わる中で常に考えることは,それぞれにとって,音楽はどんな役割を果たしていくのだろうということである。楽器を演奏するという事は,単純ではない。両手でリズムを叩きながら,他のリズムを聞き,テンポを保持し,曲調に合わせ…子供たちが楽しみながらも,時には療法の役目を果たしたり,仲間と同調することを学んだり,はたまたストレス発散になっていたりするなと感じるときがある。そんなときには,改めて音楽の力を実感する。
  島根大学を卒業して約10年,いつまでたってもスタート地点からそう前進したとは言い難いが,演奏を通して,お客さんと,会場と,自分の楽器と,自分とがつながる瞬間を目指して前を向いていきたいと思う。「やめたら終わりやからな~」という中村功師匠の言葉を励みに…。

出井紗希子(いでい さきこ)
岡山県総社市生まれ。平成12年島根大学教育学部学校教育教員養成課程卒。京都市立芸術大学大学院打楽器専修修了。ドイツ国立カールスルーエ音楽大学打楽器科修了。スイスやドイツのオーケストラでエキストラとして出演する傍ら、ヨーロッパと日本を往来しながらソロやワークショップを数多く行っている。現在ドイツ・トリアー市に在住しヴィトリッヒ音楽学校打楽器科講師も務めている。


演奏と研究,子どもとの関わりがバランス良く循環する充実感

村上景子さん 平成14年3月 島根大学教育学部学校教育教員養成課程(音楽教育)卒業

村上景子さん.JPG 私は現在フランス、ストラスブールを拠点に演奏活動をしています。2001年に受講生として参加した「秋吉台の夏」でフルート奏者マリオ・カローリ氏に出会ったのがきっかけで、2002年にストラスブール音楽院に入学し、フルート、室内楽、楽曲分析、トラヴェルソ等の授業を受けました。卒業後は現代音楽アンサンブルのメンバーとしてヨーロッパ各国で演奏活動をしながら、音楽学校のフルート講師として音楽教育にも携わっています。
 私にとって、演奏活動と音楽教育とは切り離すことのできない二つの支柱です。現在演奏の面で一番力を入れているのは室内楽で、20世紀・21世紀のレパートリーを中心に、作曲家とのコラボレーションを経ての新曲初演、またダンスや演劇等、他の分野のアーティストと一緒に作品を構想することもあります。演奏する力は勿論、発想の豊かさや、アイデアを具体的に実現していく臨機応変さも求められます。またフルート講師としては、子供達の繊細な表現力に耳を澄ませ、音楽を通して生徒一人ひとりが持っている力を伸ばしていくこと、子供達自身の「聴く力を育てること」で自然なテクニックを身に付けていくこと、を目標として試行錯誤しながら子供達と向き合っています。
村上景子さん室内楽.jpg世界的な現代音楽祭「ダルムシュタット夏期国際現代音楽祭」(ドイツ)に出演(村上さんが所属するアンサンブル・リネアのリハーサル風景です) 演奏・楽曲研究を通して教育への考えが深まり、また子供達との関わりを通して自分自身の演奏法を見直す。その両方が良いバランスで循環するとき、大きな充実感を得て、前進していると感じます。考えてみればその感覚は、私が大学生の頃の感じていたものと全く同じなのです。教育学部に在籍しながら、教員を志す気持ちに確信を持っていなかった私は、高い専門性の追求、音楽を通しての教育、また教育を通しての音楽について考え、そこから自分なりの人生の方向性を見出していくことを必死に考えていました。まさにそれが私の出発点であり、強みだと思っています。総合大学ならではの可能性の広さ、扉を叩いてみれば、その向こうには音楽に限らず様々な分野のエキスパートである先生方に出会えて、様々な方向性を模索できる、それが私にとっての島根大学でした。
 卒業して10年、大学から音楽院を経て今に至るまで、遠回りしたように思える道が、実はずっと一つながりで今の土台になっていると感じます。音楽の素晴らしいところは、ここまでやれば良い、という点がないところです。今後も更に美しい音を、更に自然なフレージングを、更に豊かな音楽教育を目指して、日々精進したいと思います。

村上景子(むらかみけいこ)
松江市出身。2002年 島根大学教育学部学校教育教員養成課程音楽教育(フルート専科)卒。
その後フランスに渡り、ストラスブール音楽院フルート科卒、同音楽院研究課程修了。ストラスブール大学大学院では音楽学を専攻し「演奏解釈」の研究で修士号を取得。また、ベルン芸術大学(スイス)でもディプロマ(舞台芸術)を取得する。現在ストラスブールに居住し、アンサンブル・リネアのメンバーとして世界各地の主要音楽祭に出演する傍ら、地元音楽院で後進の指導にもあたっている。島大在学中は、オーケストラのインスペクターも務めた。