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両生類変態・プログラム細胞死・再生・筋分化 

(西川 研究室)

690-8504 島根県松江市西川津町1060 

2017, March 20 更新) 

西川研究室では両生類とくにアフリカツメガエルを用いて、変態過程におけるホルモン作用, プログラム細胞死, cell turnover, 成体型幹細胞システムへの切り替え機構などに着目している。最近では、「成体型筋形成が脊索からの因子によって抑制される現象」や「尾に移植された肢芽と尾との境界に新たな肢芽が形成される現象」を見出しました。さらに筋形成、筋再生、両生類での指間細胞死などに焦点を当てています。

最近の研究:

ツメガエル幼生型および成体型筋幹細胞へのIGF-1の作用:In Vitro Cell Dev Biol Anim 53 (3):231-247 (March 17, 2017)   Online (2016, 03 Oct):  DOI: 10.1007/s11626-016-0099-9

両生類の筋幹細胞増殖と分化に対するインスリン様増殖因子の働きを初めて明らかにした。発生運命を異にする2種の幹細胞の何れに対してもIGF-1は増殖分化促進効果を示した。しかしながら、分化促進する有効濃度は異なっていた。また、甲状腺ホルモン下では、幼生型筋幹細胞へのIGF-1の分化促進効果は消失したが、成体型筋幹細胞への効果は存続した。

 

●Myogenic transcription factor 1つであるmyf5発現がツメガエル幼生型と成体型の筋前駆細胞で異なることを明らかにしました:In Vitro Cell Dev Biol Anim 49:524-536 (May, 2013),  DOI 10.1007/s11626-013-9635-z

 

カエルでは起きないとされていた指間細胞死がツメガエルで起きていることを明らかにしました:In Vitro Cell Dev Biol Anim 48:313-325 (May, 2012) 哺乳類と無尾両生類の手足の形成過程機構の相同性が指間細胞死に関しても明らかになりました。

 

その他、総説など:

●ツメガエル表皮と筋の細胞培養系についての総説 (2015):

“Xenopus as model animals for studying larval to adult tissue remodeling and adult organ formation”Advances in Medicine and Biology, vol 85, pp117-146, 2015, Editor: Leon V. Berhardt ISBN: 978-1-63482-658-7) が、web上で自由閲覧可能になりました。

 

 


研究内容

 

I. 両生類変態にみられる筋成体化は、どのようにして調節されているか? 幼生型の筋プログラム細胞死は、どのようにして調節されているか?

1.波状におこる新たな成体型筋の増殖・分化と既存の幼生型細胞の死

両生類の変態期にオタマジャクシの体制(幼生型)からカエルの体制(成体型)に切り替わる際には、成体型前駆細胞が増殖・分化し、一方では幼生型細胞がプログラム細胞死すると考えられている。われわれは変態期の背筋におこる幼生型から成体型への筋タンパク質アイソフォーム変換に着目し、この現象が、体軸の前方から後方へと波状におこる新たな成体型筋の増殖・分化と既存の幼生型細胞の死によって起こることを明らかにした(Dev. Biol., 1994, Differentiation, 1995)

 

2.筋の前駆細胞である筋芽細胞のレベルにおいても幼生型、成体型の特殊化が起きているかどうか

死ぬ運命にある尾筋(オタマジャクシ)および死なない運命の肢筋(カエル)からそれぞれ幼生型筋芽細胞、成体型筋芽細胞を単離し、両者の性質の比較を培養下でおこなった。その結果、@幼生型筋芽細胞よりも成体型筋芽細胞のほうが数倍はやく増殖する、A幼生型筋芽細胞は変態ホルモンである甲状腺ホルモン(T3)に反応して増殖の抑制と細胞死がおこるが、成体型筋芽細胞は死なないで増殖・分化し続ける、BT3は、培養下での筋管への分化を幼生型筋芽細胞では抑制するが、逆に成体型筋芽細胞では促進する、CT3は、培養下で生じた幼生型筋管の死を誘導するが、成体型筋管の死は誘導しない、ことが明らかとなった。このような幼生型筋芽細胞と成体型筋芽細胞の性質の違いにより変態期における筋変換が成し遂げられると考えられる(Differentiation, 2000)

 

3.変態期に成体型の筋分化だけが促進されるしくみ

幼生背筋に2種の筋芽細胞が存在することが示唆されたので、これらの筋芽細胞の中で、成体型の分化のみが変態期に促進される機構を細胞間相互作用とホルモン相互作用の観点から解析した。その結果、・副腎皮質ホルモンであるhydrocortisone (HC) により成体型分化は6倍に促進され、さらにT3+HCでは13倍に促進された。・変態期に上昇する別のホルモンであるprolactin (PRL) T3との共存下で成体型分化を2.5倍促進した。

また、尾筋芽細胞(幼生型)と足筋芽細胞(成体型)間の識別が可能となるように、Xenopus borealisの幼生型筋芽細胞 (核のキナクリン染色パターンによりX. laevis 細胞と識別可能である)X. laevisの成体型筋芽細胞の混合培養を行い、それぞれの細胞の分化促進への相互作用を解析した結果、・成体型筋芽細胞の筋管への分化のみが、幼生型筋芽細胞の存在により選択的に促進されることが明らかとなった。(Dev Biol, 2002)

両生類の幼生型および成体型筋幹細胞の増殖と分化に対するインスリン様増殖因子(IGF-1の働きを培養系にて調べたところ、発生運命を異にする2種の幹細胞の何れに対してもIGF-1は増殖分化促進効果を示した。しかしながら、分化促進する有効濃度は異なっていた。また、甲状腺ホルモン下では、幼生型筋幹細胞へのIGF-1の分化促進効果は消失したが、成体型筋幹細胞への効果は存続した。オタマジャクシ背筋には2種類の筋幹細胞が存在し、甲状腺ホルモン濃度が上昇する変態期には、そのうちの成体型筋幹細胞だけがIGF-1による分化促進をうけて、背筋の成体化が進行すると考えられた(In Vitro Cell Dev Biol Anim-A (2016)

 

4. 尾で成体型筋形成が抑制される仕組み

幼生型筋前駆細胞は、背筋にも尾筋にも存在しているにも関わらず、成体型筋形成が起きるのは、背筋だけで、尾では成体型筋形成が抑制されている。胴断面と尾断面を観察すると、脊索/神経面積比は、胴では1:1であるが、尾では20:1に著しく増加している。そこで、脊索量の多い尾では、脊索細胞が尾の成体型筋形成を抑制し、逆に神経細胞の多い胴では、神経細胞が成体型筋形成を促進しているのではないかと仮定し、混合培養実験を行った。その結果、神経細胞は、成体型筋前駆細胞の筋分化を促進し、逆に脊索細胞は、成体型筋前駆細胞の筋分化を著しく抑制した。この仕組みに関与すると思われる細胞相互作用として、脊索抑制神経促進と名付けた(In Vitro Cell & Dev. Biol.-A, 2011)。脊索抑制の際には、成体型筋分化に特有のmyf5遺伝子の発現が顕著に抑制され、細胞分裂も抑制されることが判明した(In Vitro Cell & Dev. Biol.-A, 2013)。

 

II. 造血システムの変換は、どのようにして調節されているか?  

幼生型赤芽球レベルでの細胞死は起きているか?

1.両生類変態期の造血システムの変換-幼生型前駆細胞のプログラム死-

両生類の変態期に赤血球のヘモグロビンのアイソフォームが変換することが知られている。造血システムが幼生型から成体型に切り替わる際に、成体型前駆細胞が増殖・分化し、一方では幼生型前駆細胞がプログラム死すると考えられている。われわれはT3が幼生型赤芽球特異的にプログラム死を誘導し、またT3+ Hydrocortisoneが成体型赤芽球の増殖・分化を著しく促進することを明らかにした(Histochem Cell Biol, 1999)

 

III. 両生類変態期アポトーシスを司るDNaseはどのようなものか? 

アポトーシスに関わるマクロプァージの役割はどのようなものか?

1.ツメガエルのDNase γの活性

アポトーシスを司るDNase γの活性がツメガエルにも存在することを証明し、その活性が変態期に肝臓の細胞(白血球、ヘパトサイト、赤血球)で著しく増大することを明らかにした。(BBRC, 1997; Apoptosis, 1998)。この活性の増大には肝臓のマクロファージ数の増大が関与していることが示唆されている。体制の作り替えに関わるアポトーシスの分子カスケードや細胞間相互作用のさらなる解明をめざしている。

 

2.筋アポトーシスへのマクロプァージの関与

変態期におこる細胞死は最終段階にマクロプァージが関与するアポトーシスとしてしられている。ツメガエルの変態期の筋アポトーシスの際に筋マクロファージが著しく増加し、この増加はT3によって誘導される。接着関連分子であるアタッチミンのマクロファージ上での発現が筋アポトーシスの最も増える時期に増強される。(Histochem Cell Biol, 1998)。マクロファージの起源(cell lineage)と分化機構、さらにどうやって幼生型筋を特異的に認識しているのか等の疑問を解明していきたい。

 

W. 手足の指の間の細胞死

1.無尾両生類においても「指間細胞死」が起きていることの発見

cell death limb羊膜類の指の運命、すなわち自由であるか、水かきがあるかは、プログラムされた指間細胞死(ICD)領域の大きさによって決まる。しかしながら非羊膜類の陸上脊椎動物(無尾類と有尾類)の発生中の肢芽では、これまでに細胞死は全く(あるいはほとんど)観察されていない。我々は、両生類ICDが検出できない状況は、大部分の両生類の特徴である発生速度の遅さに起因する細胞死の低頻度によってもたらされていると予想した。そこで我々は、カエルXenopus laevisにて見つけることが困難であったICDを検出するための3つの戦略を示した。@甲状腺ホルモン(T3)の投与は、四肢発生を23倍加速した、そして加速されたstage5455のオタマ肢芽にて、生体染色される細胞(すなわち死細胞)の出現頻度を23倍増加させた。Aステージ5354のオタマ自脚へのBMP4(骨形成因子:羊膜類の細胞死誘導剤)の投与は、指骨の形成を増強し、その増強された指骨の周りに生体染色されうる細胞(死細胞)を誘導した。B細胞培養法も用いることでT3が肢芽間充織細胞の軟骨形成と細胞死活性を増加させること、またT3による両活性増強が後肢よりも前肢においてより強いことが明らかとなった。以上3つのアプローチから、適切な戦略を用いればツメガエルICDが“水かき”がなく、後肢には広い大きな“水かき”があることに対して、ICDの強弱の調節が関与している可能性が示唆された。In Vitro Cell Dev Biol Anim 48:313-325May, 2012

 

X. 尾に移植された肢芽からの新生肢芽形成

  肢芽が形成される仕組みには、モルフォジェンを介した上皮間充織相互作用が関与していると考えられている。発生の特定の時期に体の特定の場所に肢芽という形態形成の場が左右相称的に作られる仕組みは、大枠は理解されてきているが、不明な点も多い。今回我々は、ツメガエル幼生の未分化な肢芽を尾に移植すると、その移植肢芽が成長して正常な形態の足にまで成長するだけでなく、移植肢芽の基部に新たな肢芽を形成することを見出した。新生肢芽は、必ず移植肢芽と左右相称的であり、面白いことに1対の骨盤まで含む、いわゆる「足腰」を形成した。また移植部位は尾だけにとどまらず、腹部や頭部であっても新生肢芽が誘導された。新生肢芽が誘導されるための移植時期は、変態が始める直前までであり、変態現象と肢芽形成能の間に何らかの関係が潜んでいることが示唆された。Zoolog Sci 32 (3): 223-232 (Jun, 2015)

 

 

 

 

研究室(29年度)のメンバー

 西川彰男

教授

akio@life.shimane-u.ac.jp

 矢田智崇

 M2

カエル筋幹細胞の培養下での増殖分化の調節機構

 

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Reference

卒業生の研究題目

両生類変態とは

プログラム細胞死とは

ツメガエル筋形成のおもしろい特徴