1.種子の発芽

 種子の発芽は外形的には幼根や幼芽が種皮を破って出現したときと一般的には定義されます.発芽には生理的に複雑な一連の過程を含んでいますので,特定の時点だけを見ても発芽全体を理解したとはいえません.なお種子が発芽し,土から芽が現れた状態を出芽といい,発芽とは厳密に区別されねばなりません.
 発芽には水分,適切な温度,酸素は必須です.イネやトウモロコシなど熱帯性の作物はより高温で発芽しやすくなります.一定の温度よりも,温度が変化する方が発芽しやすい種も多く,その例として,タバコ,ソバがあります.イネは酸素が少なくても発芽できますが,ダイズは酸素が少ないと発芽できません.発芽に対して,光は必要なもの,阻害されるもの,無関係なものがあり,光があると発芽が促進されるものとして,レタス,タバコなど,暗所で発芽が促進されるものとしてダイコン,スイカなど,光は無関係なものとしてイネ,トウモロコシなどがあります.
 種子は最適な発芽条件であっても発芽しないことがあります.このような種子は休眠しているといいます.秋に結実する植物の場合,休眠しないと,秋の温度は春と同じように発芽に適していますので,秋に発芽し,冬の寒さで枯れてしまうでしょう.数ヶ月の休眠後,春に発芽する性質はこのような環境では不可欠です.熱帯でも乾季と雨季が周期的に繰り返す条件では雨季の終わりに結実し,その後の乾季には休眠して発芽しません.野生のイネには強い休眠性があるのはそのためと考えられます.

2.数種の作物の果実および種子の構造

マメ科作物は莢の中に数個の種子を作ります.莢は果実に相当し,子房が受精後に膨らんでできます.子房の中の胚珠が受精後に肥大し,種子となります.種皮は珠皮から発達します.胚乳は途中で退化し,栄養を子葉が吸収します.

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イネ科作物の種子は果皮と種皮が癒合しており,1つの果実に1つの種子がありますが,果実と種子はほとんど区別できないほどです.胚乳が発達し,デンプンが蓄積されます.

コムギでは種子根が数本出てきますが,イネでは種子根は1本だけで,しかも短命です.

発芽とは種子の中にあった幼芽や幼根が種皮を突き破って出現したときとします.発芽の過程にはしかし,実際には様々な生理的な過程が含まれていますので,目に見える芽の出現だけにとらわれてはいけません.

発芽に対して,土から芽が出現することを出芽といいます.農業的には出芽は重要です.出芽は発芽だけでなく,その後の土の中での芽の伸長も含みますから,さらに複雑です.
出芽には子葉が地上に出るタイプ,ダイズのような地上子葉型(epigeal型)と子葉が地下に残るタイプ,エンドウのような地下子葉型(hypogeal型)があります.
地上に子葉が出ると鳥に食べられそうですし,地下に残ると地下の虫や菌に冒されそうです.それぞれのタイプは生育する環境に適応して,決定しているのだと考えられます.