第9回 気温と水稲の開花時刻の関係 その2 圃場,すなわち自然条件下での実験

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 今回は2007年11月7〜9日にタイ王国・バンコク・Queen Sirikit National Convention Centerで開催されたアジア作物学会でポスター発表した「気温が水稲の開花時刻に及ぼす影響」について簡単に紹介します.

実験の目的

実験方法

結果

実際に発表会場に掲示したポスターの縮刷版(英語,PDF)

実験の背景

 研究の紹介(絵日記風)第8回でも述べたように,早朝開花性は水稲の開花期における高温不稔を回避するために重要な性質の1つと考えられます.午前10時前後には1時間当たり気温が2〜3℃上昇しますので,たった1時間でも早く開花するだけでも高温不稔の軽減に大きく寄与する可能性があります.  開花時刻は強い遺伝的な制御下にあると考えられますが,気象,とりわけ温度の影響も強く受けます.開花時刻と温度の関係を調べた実験のほとんどは人工気象室を使った人工的に制御された環境でなされてきました.しかし,屋外の自然条件と比較すると,同じようにポット栽培であっても人工気象室のイネの方が1,2時間開花が遅くなることが知られています(今木ら 1982).圃場条件で気温の変化がどれだけ開花時刻に影響するかはほとんどわかっていないので,開花期の温度条件に強く影響する開花時刻を予測する可能性を狭めています.

 今回の実験の目的は圃場条件下における開花以前の温度と開花時刻の関係を明らかにすることです.

 実験は2つ行いました.実験1は中国江蘇省南京市にある江蘇省農業科学院の水田で,インディカ品種3つ,ジャポニカ品種3つを供試して行いました.実験2は島根県松江市にある島根大学生物資源科学部の実験水田でジャポニカ,インディカ数種類ずつを供試して行いました.
 開花時刻の調査は10分後にデジタルカメラで穂を撮影することによって行いました.開花時刻とはここでは1つの穂についてその日に開花した穎花のうち,半数が開花した時刻としました.気温を10分ごとに測定しました.

 深夜0時から朝6時までの平均気温がもっとも開花時刻との関係が強くなりました(表1).

実験1(中国江蘇省南京市での実験)

表1 南京で使用した6品種それぞれについての,開花時刻と開花前日の夜間の平均気温(00:00-06:00時,18:00-06:00時,03:00-09:00時,開花前12時間,開花前6時間)との間の相関係数

 それぞれの品種のついて開花時刻と開花前日の00:00-06:00時における平均気温との関係を図示したものだ図1です.インディカ品種の方がジャポニカ品種よりも1,2時間程度,早く開花する傾向にありました.とりわけ小麻占は午前9時頃に開花することもあり,注目されました.夜温が1℃上昇すると開花時刻が九9304を除くと20〜30分ほど早くなりました.

実験2(島根県松江市での実験)

 インディカ品種,ジャポニカ品種をそれぞれまとめて,開花時刻と開花前日の00:00-06:00時における平均気温との関係を図示したものだ図2です.実験2においてもインディカ品種の方がジャポニカ品種よりも開花時刻が1,2時間早い傾向にありました.さらにインディカ品種では夜温が上昇すると開花時刻が早くなり,1℃の上昇で20〜30分開花が促進されました.しかし,ジャポニカ品種では気温と開花時刻の関係は相関係数が0.0949と低く,明白ではありませんでした.

結論

 インディカ品種では,開花前日の00:00-06:00時における平均気温が1℃上昇すると20〜30分開花が促進されました.しかし,ジャポニカ品種では気温と開花時刻の関係は明白ではありませんでした.

引用文献
今木正・常慶一芳・原一博 1982. 制御環境下における水稲の開花反応について.島根大農研報 16:1-7.
Sateke, T and Yoshida, S. 1978. High-temperature stress in rice. Jpn. J. Crop Sci. 47:6-17.