第1回 2005年2月前半のオーストラリア・ニューサウスウェールズ州の水田地帯での調査・研究
地球温暖化したら稲の生育はどうなるのでしょうか?
いろいろな人工的な気象装置によって研究が進められています.
さらには温暖化に加えて,二酸化炭素濃度も上昇するので二酸化炭素濃度が上昇した場合,イネの生育がどうなるかを大規模な圃場実験で調べているところもあります.
しかし,本当のところは温度が上がってみないとわかりません・・・では困りますので,実際にイネの生育期間中で非常な高温になるところへ行ってみようということになりました.第1弾はオーストラリア・ニューサウスウェールズ州です.ここでは夏40℃以上になるのに高温による稲の生育阻害(とくに受精阻害)は問題になっていないようです.(ちなみに第2弾は2005年8月に中国へ調査に行く予定です.中国では高温による受精阻害が2003年に問題となりました.)
シドニーというオーストラリア最大の都市のあるニューサウスウェールズ州ですが,水田地帯はそれからかなり西の内陸部,Murrumbidgee川の流域にあります.中心地はLeetonです.しかし,今回おもに調査したのはさらに内陸部のHay(オーストラリアではハイと発音していた)でした.
人口2000人程度のHayの水田を対象に調査しました.
上のグラフのようにHayでは2004年には水稲の開花する2月に最高気温が45℃を超すこともありました.
ところが今年は日本を出発する前の日(2月1日)に最高気温が15℃を下回る異常な気象となり,現地では最高気温が35℃を超すことはありませんでした.
ちなみに現地の人の話では,高温によるイネの不受精は水稲群落の周辺部では起こっているそうです.でも下の写真のように水田が大きいですから,そのくらいのことはほとんどどうでもいいようです.それよりときどきおそってくる低温による不受精の方を重視しており,深水灌漑などによって低温による障害型不稔はしっかり対策していました.
上の写真のように水田はとても広いのですが,ここ数年は灌漑水(雪解け水)が足りないのであまりイネを栽培していないそうです.この水田の反対側を向くと広大な休閑地が広がります.
地球温暖化はただ温度が上昇するというだけではなく,降雪量を減らして,灌漑水を不足させるかもしれません.実際,北陸地方などで降雪量の不足による灌漑水の不足の可能性があるともいわれています.
NASAでは今年の平均気温は観測史上最も高かった1998年をしのぐかもしれないと予測しています.ここ数十年でもっとも気温が上昇したのは,シベリアから中央アジアにかけてとアラスカ半島,南極半島だそうです.特に冬の気温の上昇が著しく,シベリアの温度が上がると日本での降雪量の減少が起こることは十分予想できそうです.
とはいえ,冬はいつも異常乾燥注意報の出る瀬戸内出身(姫路)のわたしは山陰の冬の天気の悪さにいつもうつ状態なので・・・さてどうしたものか?
何を調査したのかといわれそうですが,上の写真のようにイネの開花時期におしべの先にある花粉の入っている袋である葯の様子を見たり,右下の写真のように柱頭にどのくらい花粉が落ちたかを調べたりしました.今回はあまり高温に遭遇しませんでしたが,8月の中国の調査,さらに来年,再度のオーストラリアの調査ではどんな結果が得られるのでしょうか?