農業生産学基礎実験 第4回 種子の発芽調査
2.低温条件下が速やかに発芽する品種の探索
 北海道など春先の水温が低いところで,直播によって,水稲を栽培する場合,水温が低い条件でも速やかに発芽できる能力を持った品種が望ましいです.ここでは育種された場所の異なる数品種の種子を使って,15℃という低温条件で7日間発芽実験を行った種子を実際に観察し,調査します.
品種:WAB450-1-B-P-HB(西アフリカ,O. sativaO. glaberrimaの雑種でネリカイネと呼ばれる),IR72(フィリピン),コシヒカリ(福井県),IR72(フィリピン),朝日(京都府),密陽23号(韓国),Dular(インド),朝日(京都府),ミルキークイーン(茨城県),ひとめぼれ(宮城県),フジミノリ(青森県),赤毛(北海道),()内は育成地.
 実験方法は温度が15℃であることを除くと前述した方法と同じです.
1) 発芽の観察
 芽や根がどれだけ伸びているかをものさしで測定します.さらに簡単にスケッチをします.
2) 発芽数の調査
 各品種,1ペトリ皿ずつ,発芽数を数えます.
今回の実験の目標
1) イネの種子の発芽実験を行います.(異なる保存方法で保存した採取年度の異なる水稲種子を実験材料とします)
2) イネの種子の発芽を観察し,発芽数を数えます(15℃という低温条件下で発芽させた水稲種子数品種を調査し,低温でもすみやかに発芽できる品種を探します)
提出物 発芽試験の結果,発芽の観察スケッチ
1.種子の発芽
2.発芽試験
 種子の発芽能力を検定する方法にはいろいろありますが,種子を発芽に適した条件において,発芽数を数える発芽試験がもっとも端的に発芽能力を評価できます.種によって,最適な発芽条件が異なりますので,発芽試験の方法はそれぞれの対象作物によって異なります.イネでは30℃で,蒸留水で湿らせたペトリ皿に種子を置くと発芽し,発芽試験は容易なので,今回はイネで発芽試験を行います.温度が変化する条件の方が発芽が促進される種もあり,タバコやソバでは20℃に18時間,30℃に6時間置くと発芽がもっともすみやかに進みます.このような種では変温条件下で発芽試験を行います.休眠性を有する種子では休眠を打破してから発芽試験をします.
2011年種子発芽試験の結果・過去のレポート例
3.種子の保存
 イネ科,マメ科などたいていの植物の種子は乾燥・低温条件で種子の寿命が長くなります.しかし,乾燥条件に置くと発芽能力を失う作物もあり,コーヒー,カカオ,カンキツなどがその例です.遺伝資源の保存のために種子を保存する場合は,種子の更新(発芽させ,新しい個体を育て,花を咲かせ,種子をあらたに増やして採種すること)をするたびにその保有する遺伝子の構成が変化するおそれがありますし,多数の品種を保存するとその更新の手間は馬鹿になりませんので,できるだけ長期保存できる設備において,種子の更新は必要最小限にします.
 栽培に使う種子はなるべく新鮮な種子を利用するのが一般的です.しかし,種子を毎年,更新する労力を減らす目的で,冷蔵庫などで保存した種子を使うことも最近は増えています.

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今回の実験
1.異なる保存方法で保存した採取年度の異なる水稲種子の発芽実験
 イネ科種子の寿命はおおむね短いです.イネでは外気にさらした種子の寿命はだいたい3年ほどです.イネ科種子を低湿度,低温条件で保存するとその寿命を長くできます.ここでは1)デシケーターによる低湿度条件下の保存,2)冷蔵庫による低温・低湿度条件下の保存によって種子の発芽率の低下をどの程度,抑えられるか,さらに何年以上,発芽力を保持できるかを調査します.
材料と方法
 1992〜2006年の秋に採種したイネの種子を供試します.それぞれの種子は採種後,翌春まで自然状態で保存し,採種した翌年に塩水選(比重1.13)し,優良な種子だけを選別しました.塩水選後,以下に述べた方法で保存しています.
1) 昨年(2006年)に採種した種子(比較対照区)
2) 自然状態で保存した種子(2004,2005年産:2003年以前の種子の発芽率は昨年でほぼ0%になりました.)
3) デシケーターで低湿度条件下で保存した種子(1992〜2005年産)
4) 冷蔵庫で低温・低湿度状態で保存した種子(1995〜2005年産)
 全体を数班に分け,1)から4)を分担して,3反復になるようにして,調査します.
 ペトリ皿にろ紙を敷き,その上に採種年度と保存方法が異なる種子をそれぞれ50粒置きます.そのあと水道水を種子がほぼ浸かる程度,入れます.ペトリ皿のふたをして30℃に設定した恒温器に入れます.毎日,正午前後に発芽数を数えます.このとき必要ならシャーレに水を補給し,腐敗した種子は捨てます.これを2週間継続します.発芽は芽が種皮を破って,出現した瞬間です.
 データは授業の時に渡した記録用紙に書き込みます.第7回の実験でデータ解析のために今回,実験したデータを使う予定です.

発芽試験の結果は以下の通りでした.コシヒカリが発芽率が低かったのは,休眠性が強いからでしょうか?必ずしも熱帯産のイネの発芽率が低いわけではありませんでした.東北の品種はあまり発芽率が高くありません.実際の栽培では,日本では種子に30℃程度の温度を与えて発芽させてから,播種するので低温下での発芽能力は選抜対象とはほとんどなっていないからでしょう.

15℃の条件で発芽させた数品種のイネの種子