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研究紹介

概要

私たちの研究室では分子生物学的な手法を主に用いて、

  1. 翻訳のアダプター分子として働く、植物核tRNAの動的な発現制御機構の解明
  2. 植物細胞が豊富に含む、非タンパク質態のアミノ酸であるγ-アミノ酪酸 (GABA) の機能解明

を大きなトピックとして研究をしています。

植物材料として用いているのは、モデル植物であるシロイヌナズナとイネです。これら2種の植物はゲノム計画が終了し、解読された遺伝情報、遺伝子クローン、様々な種類の変異株などのリソースが整備されています。これに加えて、これらの植物では逆遺伝学的なアプローチに必須な遺伝子導入法(形質転換法)が確立しており、試験管内で自在に改変した目的遺伝子を生体内で機能解析することが容易に行うことができます。tRNAとGABAの基礎研究に加えて、2008年~2012年の間、ポストゲノム研究の大型プロジェクトである「新農業展開ゲノムプロジェクト」に参画し、機能性成分としても注目されているGABAに的を絞った分子育種学的な研究を進め、その成果は国内外で高く評価されています。

植物核tRNAの機能発現とスプライシングに関わる酵素の新規機能の探索

(i) 植物核tRNA遺伝子の発現調節機構の解明

植物ゲノムの解読から、翻訳に関わるtRNA遺伝子の数は600~1000種類あると推定されています。これらは、運ぶアミノ酸ごとに21種類のグループに分類でき、それぞれ~30種の同義tRNAをコードしています。グループ内の同義tRNAの発現は同じなのか、或は組織や発生段階によって異なるのか、極めて興味深い問題を含んでいます。tRNAは塩基配列上での保存性が高いために、マイクロアレイなどの網羅的な発現解析手法を適用することができません。このため我々は個々のtRNA遺伝子の生体内での発現を解析する手法を独自に確立しました。現在、この実験系を用いてシロイヌナズナが持つ17種のtRNAGln遺伝子族の発現様式を調べています。

(ii) tRNAスプライシングの未知機能の探索

本研究室とドイツ・ヴュルツブルグ大学のBeier博士らの研究から、植物ではtRNAMetとtRNATyrをコードする遺伝子がイントロンにより分断されていることが判明しました。tRNAイントロンのスプライシングは酵素的な切断と連結反応により行われます。従来、tRNAスプライシングは核のみに局在すると考えられていましたが、単離同定されたtRNAスプライシング酵素群は緑色蛍光タンパク質 (GFP) を指標として調べた結果、ミトコンドリアや葉緑体にも局在することを発見しました。

現在、tRNAエキソンの連結反応に関与するtRNAリガーゼに的を絞り、葉緑体でどのような役割を担っているのかを明らかにしたいと考えています(図1)。

GFP

図1. ソラマメ孔辺細胞におけるtRNAリガーゼの葉緑体局在
(左)葉緑体の自家蛍光の赤色
(中)tRNAリガーゼ::GFPが発する緑色蛍光
(右)明視野での葉緑体自家蛍光とGFP蛍光の重ね合わせ

植物GABA代謝系とその機能の解明とその分子育種への応用

GABAはタンパク質合成には使われないアミノ酸の一種ですが、全ての生物が普遍的に持つアミノ酸です。動物では古くから抑制性の神経伝達物質として働くことが知られており、近年では高血圧症、内蔵機能の改善、学習機能の向上、ストレスの軽減など、様々な機能性が報告されており、健康機能性成分として注目されています。一方、植物では冠水・高温・乾燥・高塩などのストレスにより細胞内のGABAレベルが上昇することが分かっています。本研究室ではGABAの合成と分解に関わる酵素群やそれらの遺伝子群に注目して、GABA代謝系による細胞内GABA含量の調節の仕組みを明らかにするとともに、代謝系の人為的な改変によりGABAを強化した米の開発と実用化のための研究を進めています(図2)。GABA米の開発については「新農業展開ゲノムプロジェクトのページ」のページでも紹介されています。

韓国の隔離圃場

図2. 韓国の隔離圃場でのGABA強化米イネの栽培の様子(2012年8月)